『オルガの翼』のリアリティ
ウクライナで2014年に起こった反ロシア運動「マイダン革命」をテーマにした映画というので、フランスのエリ・グラップ監督の第一回長編『オルガの翼』を見た。例によってイタリア映画の名作を見過ぎているので大半の新作はかすむが、これはちょっとおもしろかった。
一番すごいのは、「マイダン革命」そのものの映像だったかもしれない。主人公のオルガは15歳のウクライナの体操選手だが、母がジャーナリストでヤヌコーヴィッチ大統領を批判したために狙われており、亡き父の故郷であるスイスへ行って体操を続ける。彼女はそこで母や友人に電話し、スマホやパソコンでマイダン革命での映像を見る。その緊迫感が半端ではない。
私はこの映像を見た記憶がない。2014年のウクライナは、マイダン革命直後にクリミア半島にロシア軍が侵入して支配したニュースの方が大きかった気がする。しかしもちろんこの2つはひとつながりのできごと。ついでに言えば、この2月からのロシアのウクライナ侵攻も繋がっている。
オルガが住みだしたスイスの街はフランス語とドイツ語が公用語だ。しかし体操チームにはイタリア人もいて相当の多言語だ。そこでオルガはスイスの代表に選ばれるが、突然やってきた彼女のおかげで代表入りができない選手も出てくる。国際大会でドイツのシュトゥットガルトに行くと、ウクライナ代表で友人がやってくるし、ロシア代表に加わった元コーチもいた。
ウクライナの友人は大会で体操を披露する代わりに、観客に向かって「フリー、ウクライナ!」と叫ぶが、警備員に取り押さえられる。オルガは見ていられない。一方で母が警察にやられて重傷を負ったニュースも入るが、オルガは何とか持ちこたえて演技する。やがてマイダン革命が終わってヤヌコーヴィッチが追放されると、オルガはキーウに戻り友人や母と再会する。そしてロシアによるクリミア半島の支配を知る。
母は政権から弾圧されて殺されそうになり、娘はスイス代表になるべく訓練しながら母やウクライナの心配をする。スイスに来て生活に馴染めないし、選手仲間との軋轢もある。そのうえ、足のケガもあった。
だから映画としては盛り込み過ぎでもあるが、スポーツ特有のカタルシスも巧みに挟みながら、ウクライナの近過去をたっぷり見せている。とにかく90分はあっと言う間だったし、ウクライナのことをよりくわしく知ることができてよかった。
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