シンプルで異様な『マイ・ブロークン・マリコ』
タナダユキ監督の『マイ・ブロークン・マリコ』を劇場で見た。この監督は時々とんでもない映画を作るので、目が離せない。最近だと『ロマンスドール』(2020)は好きだったが、翌年の『浜の朝日の嘘つきどもと』はあまりピンと来なかった。
今回は同名コミックの映画化で、シンプルだが異様な映画だった。冒頭に食堂で昼食を掻き込むOLシイノ(長野芽郁)がテレビで友人マリコ(奈緒)の飛び降り自殺を知る。マリコは小さい頃からなぜかシイノになついていた友人だが、長年父親から虐待を受けていた。
マリコが直葬で遺骨になったと病院で聞いたシイノは、父親の家に飛び込んで命懸けで遺骨を奪い、彼女が行きたがっていた東北の海岸を目指して突っ走る。それだけの話で、父親(尾美としのり)はDVおやじそのもので、会社の上司は典型的なブラック企業の「クソ上司」。
父も上司も周囲は抽象化されて、シイノが思い出す幼い頃からのマリコの痛々しい姿がこれでもかと出てくる。鉄道やバスを乗り継いでようやく海岸のある街にたどり着くと、シイノはひったくりに会う。そこでの唯一の救いは、彼女を助けてお金をくれた不思議な釣りの青年(窪田正孝)だが。
まず、シイノが遺骨を奪ってアパートの3階(?)から外に逃げるシーンに度肝を抜かれる。外に出るとそこは川で、彼女はそのままずぶ濡れで川を歩いて渡る。もう1度似たような場面があって、それは海岸で出くわすレイプ男に対して体ごとぶつかって宙に浮くという場面で、持っていた遺骨の骨はそのまま海に散ってゆく。
考えてみたら、マリコ自身が飛び降り自殺だった。昔の蓮實重彦さんなら「映画と落ちること」と書きそうだが、シイノの2つの飛翔によってこの映画の強い核ができているのは間違いない。それ以外は、あまりにつらそうなマリコの傷だらけの姿だけがリアリティを持っている。意味なく暴力を振るう男たちへの怨念がこもりにこもっている。
それだけと言えばそれだけだが、女の怒りだけで突っ走る85分は爽快ではある。マリコの辛い姿がちょっと多過ぎたとか、窪田正孝演じる謎の青年がもっと活躍してくれたらと思うのは、男の見方だろうか。原作は人気漫画らしいが、出来上がった映画を見た製作委員会の人々はのけぞったのではないか。この監督が映画を撮り続けていること自体が信じられない。
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