今年も東京国際映画祭の奴隷に:その(1)
今年も東京国際映画祭が始まった。去年に続いて「オープニングセレモニー」に招待されたので、行ってみた。入口に安藤裕康チェアマンを始めとして、市山尚三、石坂健治、藤津亮太という3人のプログラマーが立って招待客を迎えているのは極めて真っ当で気持ちがいい。かつてはこんな当たり前のこともできなかった。
しかし始まると、前座のような宝塚OB4人のショーが始まった。有名な方たちだろうが私は全く知らないせいもあって、ひたすらカッコ悪いと思った。そもそも映画とは何の関係もない。会場が今年は東京宝塚劇場だったからか。
それから岸田首相の退屈過ぎる挨拶ビデオ。そして「フェスティバル・アンバサダー」という橋本愛のよくわからないトーク。ここまでで30分。それから「ガラ・セレクション」に始まって各部門の上映作品の紹介に続いて3部門の審査員の紹介。コンペの審査員のみが舞台に出てきた。
ようやく安藤チェアマンの「開会宣言」の後、オープニング上映の『ラーゲリより愛を込めて』の瀬々敬久監督と主演の二宮和也のトークでちょうど1時間。はっきり言えば、最初の30分は不要。最後の2人のトークは30分後の別会場の上映前にやるべき。まずは作品を選んだプログラマーを紹介しないと。
結局、宝塚OBと橋本愛に二宮和也でテレビのバラエティー番組やスポーツ紙に出したかったからだろう。それらを見る人々は映画祭の観客とはあまり重ならないのに。招待客もアメリカ映画のメジャーと邦画大手、準大手の部長以上がずらり。彼らはこの映画祭で上映される作品の大半とはほぼ関係ない。この映画祭できちんと映画を見て買付けをやるような小さな配給会社の社長は見当たらない。
それでも選ばれた作品は良さそうだ。まず最初に見た(試写で数日前に)のはコンペの松永大司監督の『エゴイスト』だが、これが抜群によかった。ゲイの男2人の恋愛を描いているが、その完成度の高さに唸ってしまった。
鈴木亮平演じる浩輔は千葉の漁村の出身で、ファッション誌の編集者として自由な生活を謳歌している。彼は母親を14歳で亡くし、毎年命日には実家に帰る。彼にはゲイの飲み仲間が数名いたが、その紹介で肉体を鍛えるパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)で出会い、相思相愛となる。
龍太は病気の母親(阿川佐和子)がいてそのためにトレーナー以外の仕事もしていたが、それが浩輔との間の障害になってくる。最初はゲイのかなりハードなセックス描写に正直なところ少し引いたが、それがだんだん自然に見えてくる。龍太の母親への愛や、浩輔の父親(柄本明)との関係も実に細やかに描かれていて、どんどん引き込まれる。
そして終盤の展開には目を見張るばかり。とりわけ鈴木亮平と阿川佐和子のやり取りの繊細さには息を飲んだ。この監督は『トイレのピエタ』(2015)がすばらしいし、デビュー作の『ピュ~ぴる』(2011)も好きだった。しかし今回の完成度は異様に高い。この作品が賞を取らなかったら、今年の審査員がダメだということだろう。公開は来年2月だが、必見。
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