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2022年10月 9日 (日)

村山知義『戀愛の責任』に軽い失望

村山知義監督の『戀愛の責任』(1936)を国立映画アーカイブで見た。本当は石田民三の3本なども見たいが、なかなか時間が取れない。それでも村山知義の初監督作品というのは見たいと思った。

村山知義と言えば、戦前の前衛芸術家としては一番カッコいいのではないだろうか。東京国立近代美術館には《コンストルクチオン》(1925)という驚異的なコラージュの絵画があり、前年の『朝から夜中まで』という舞台のロシア構成主義的な美術でも有名だ。あるいは女装に近い格好でのダンスの写真もよく見る。

2012年に世田谷美術館など全国4つの美術館を巡回した「すべての僕が沸騰する 村山知義の世界」という展覧会があった。これを見ると彼が美術や演劇だけでなく、建築、グラフィックデザイン、装丁、小説、評論、児童書の挿絵などで活躍していたまさに「日本のダ・ヴィンチ」だったことがよくわかった。

さて総合芸術たる映画での活躍はどうだったのかと、第一回監督作品『戀愛の責任』を見たが、軽い失望を覚えた。「亡き父の残した負債のために財産を押さえられた姉妹は、行く手に待つ禍を乗り越えて新しい恋に目覚める」(チラシ)というものだが、出てくる女性たちがだらしなくてとても「新しい女」には見えない。

朱子(堤眞佐子)は外務次官の息子、藤田(北沢彪)と出歩くが、家まで送ってもらえずに豪華な首都ホテルに部屋を取る。姉の仙子(細川ちか子)に電話するが冷たくあしらわれ、叔父の新助(大川平八郎)に翌日金を持って来させて彼の麹町のアパートに陣取る。新助は女優の冴子(竹久千恵子)とつきあっていたが、朱子にくら替えする。

仙子は藤田と愛し合うが、藤田の会社は火の車。そんなこんなで姉妹の実家は借金のかたに取られて、3人の女たちはなぜか四谷の「女人荘」というアパートに住み始める。あえて言えば、モダンなアパートの部屋の会話を上から俯瞰で撮ったり、切り返しをせずにカメラを動かしたりという新しい試みはある。

たぶんそれ以上に、流行のファッションに身を包み、自由な恋愛をして最新のアパートに住む女性たちの姿を見せたかったのではないか。今見ると古くさい「トレンディドラマ」のようで、ちょっと恥ずかしい。

村山知義の監督作品はその後『初恋』(1939)くらいしかないのでは。戦後も1977年に亡くなるまで数多くの芝居を演出しているが、映画はなさそうだ。たぶん2本で「向いていない」と悟ったのかもしれない。調べたら1901年生まれで小津より1つだけ上なのにも驚いた。

 

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