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2022年10月24日 (月)

『泣いたり笑ったり』を楽しむ

ナンニ・モレッティとかパオロ・ソレンティーノのような作家性の強いイタリア映画ではなく、もっと単純に楽しいイタリア映画を見たいという観客にピッタリの映画を試写で見た。12月2日に公開の『泣いたり、笑ったり』で、夏のバカンスを別荘で過ごす2つの家族の物語。

最初から娯楽映画を目指したような設定だが、これが思いのほか繊細にできている。別荘を持っているのはカステルヴェッキオ家で、初老のトニは美術商でお洒落。母親の違う娘二人と孫娘もやってくる。その一棟を借りるのが代々漁師のぺターニャ家で、漁師のカルロに息子2人と長男の妻子がいる。

物語はトニが「今度男性と結婚する。相手はカルロ」と言い出したところから始まる。それがやってきたぺターニャ家にも伝わって、両家は大騒ぎになる。もともとぺターニャ家が来たのは、トニが結婚をみんなに発表しようと仕組んでいたから。この騒ぎに、トニの娘ペネロペの母までやってくる。

何より、トニを演じるファブリツィオ・ベンティヴォッリオがエレガントで素晴らしい。かつてはカルロ・マッツァクラッティ監督の映画などでハンサムだがどこか間の抜けた男を演じていたが、今年64歳ですっかり白髪になってこれまで両刀使いだったという放蕩者にぴったり。

そしてトニと相思相愛のカルロを演じるのが、アレッサンドロ・ガスマン。名優ヴィットリオ・ガスマンの息子でフェルザン・オズペテクのデビュー作『私の愛したイスタンブール』(1997)に出ていた頃は、とにかくスタイルのいいハンサムだと思っていたが(『私の愛したイスタンブール』でも突然男性を好きになる)、今では孫もいる男性を演じる。実際は57歳。

アレッサンドロ・ガスマンがやはり二世俳優だけ会ってどこか品が良くて庶民的な格好でもお洒落なのでとても漁師に思えないのが玉に瑕だが、それでもこの2人の元ハンサム男優がなぜかある時から惚れ合っているというのが、妙に納得がいく。2人が一緒に幸せそうにいるだけで、気持ちがいい。

トニの娘で父親からかなり放置された記憶を持つペネロペを演じるジャスミン・トリンカも、私は見ていて嬉しくなる。ナンニ・モレッティの『息子の部屋』(2001)で亡くなった少年の恋人役を演じ、マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナの『輝ける青春』で精神病患者を演じた彼女の痛々しい感じが、今回の映画でも少しだけ蘇る。

そのうえ、彼女の母親役がアンナ・ガリエナでびっくり。イタリア人だが『髪結いの亭主』などフランス映画にも出ており、いい感じの中年女性になっていた。カルロが男性と結婚すると聞いても「女も男もいろいろいたからねえ」と落ち着いて笑う。

そんな私の好きな俳優たちが揃っていたこともあり、最後まで楽しんだ。撮影されたのは、ガエータというローマとナポリの中間にある海岸の街。外国人のいない、地味だがちょっといい感じで行ってみたい。私はゲイではないが(今のところ)、ファブリツィオ・ベンティヴォリオのような60代のおやじになれたらと思ってしまった。

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