「オロオロ日記」か「ヨレヨレ日記」か
最近本の広告で気になっているシリーズに『〇〇××日記』がある。『マンション管理員オロオロ日記』とか『派遣添乗員ヘトヘト日記』とか『アラフォーウーバーイーツ配達員ヘロヘロ日記』とか。表紙がユーモラスなイラストだが、『マンション管理人』は「当年72歳、夫婦で住み込み、24時間苦情承ります」と書かれている。
だいたい誰にもできそうで楽そうに見えるが、やってみると死ぬほど苦しい仕事が多い。派遣添乗員もマンション管理員も容易に想像がつく。なかでも一番きつそうなのが、『交通誘導員ヨレヨレ日記』で、「当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます」
最近の映画でも「交通誘導員」は出てきた。『PLAN75』で75歳を過ぎた倍賞千恵子演じる女性は、病院の仕事をなくしてようやくありついたのが、夜間の交通誘導員の仕事だった。あまりに過酷な労働で、彼女は続けられない。
山田洋次監督の『家族はつらいよ』シリーズのどれか1本には、かつては女性にもてた同級生が工事現場で棒振りをしている姿に出くわすというシーンがあった。誘導員は小林稔侍が演じていて、それを憐れんで慰めるのが橋爪功だが、やはりあの仕事は現代社会の「究極」なのかもしれない。
最近、授業でヴィットリオ・デ・シーカの『ウンベルトD』(1952)を見た。30年間公務員をした男が月2万リラの年金で、アパートの家賃に1万5千払うと食費もほとんど残らない話である。彼は家賃を滞納して懐中時計や本も売るが、まだ足りない。もちろん「交通誘導員」はないので「究極」の仕事である乞食をしようとするが、どうしてもプライドが邪魔をして人前に手のひらを出せない。
70歳を過ぎて食えないというのは、昔からよくあることだったのではないか。70歳を過ぎたら進んで山に行く『楢山節考』という小説や映画もあるし。日本は高度成長期とかバブルとかあったが、それから「失われた30年」になり、コロナ過で格差は広がる一方だ。国民年金が月に10万円もないのに、どうやって暮らせるのか。
私の知り合いで60代後半でビルの警備員をしている方がいる。彼は50代半ばまで評論家として活躍していたが、どうしても食えないと悟り警備員を始めた。朝7時半から午後3時半までの勤務というが、ビルならば交通誘導員よりもまだいいだろう。それにしても。
ウーバーの配達員を見ると、若い人も多い。ひょっとすると大卒後に就職が決まらないで始めた若者もいるのではと思う。卒業までに就職の決まらなかった教え子の顔が浮かぶ。ヤマト運輸などの配達員と違ってフリーだから相当に厳しいのではないか。事故にあったらどうなるのだろうか。
「オロオロ日記」や「ヨレヨレ日記」の広告をよく見るのは、売れているからだろう。コロナ過で格差が一挙に露呈した現代日本の姿そのものかもしれない。
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