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2022年10月30日 (日)

今年も東京国際映画祭の奴隷に:その(4)

コンペの「アジアン・プレミア」の作品にも触れておきたい。フランス映画は今年は1本もないが、フランスが出資してフランス語が出てくる映画が2本あった。『ザ・ビースト』はスペインのロドリゴ・ソロゴイェン監督で、スペインの山村で暮らすフランス人夫婦に起こる悲劇をサスペンスタッチで見せる。

ドゥニ・メノーシュとマリーナ・フォイス演じる夫婦は無農薬野菜を育てながら2年住んでいるが、古くからいる住民たちはノルウェーの電力会社に太陽光発電のために土地を売ることにしか関心がない。夫婦が土地を売ることに反対するため、近所の兄弟は嫌がらせを始める。

太陽光発電が環境破壊につながるという問題設定はおもしろいが、地元で反対するのは変人の兄弟二人だけだし、途中からは妻の生き方の問題やフランスに住む娘との関係回復に問題が傾き、焦点がぼけてしまった。夫婦や娘との会話など半分はフランス語。

『アシュカル』はチュニジアのユセフ・チェビ監督が、ジャスミン革命で工事が中断した地区のビルで黒焦げ死体が連続して見つかる事件を捜査する男女2人の刑事ファトマとバタルを追う。管理人、メイドなどの焼身事件を追ううちに2人の命も危なくなってくる。殺された人々の持つ携帯にはなぜかその前の焼身事故の映像が保存されている。

ジャスミン革命前の前政権の関係者が背後にいる感じなのだが、途中からそれがシンボリックに表現されてしまって真相が雲散霧消するのが惜しい。女性刑事が取材の過程でフランス語を話すシーンがあった。

イランのホウマン・セイエディ監督の『第三次世界大戦』は、ナチの強制収容所を扱った映画の撮影に偶然に日雇い労働者シャキーブが舞い込み、いつの間にかヒトラーを演じさせられて人生が変わってゆく過程を描く。シャキーブは妻子を地震で失くしており、その後は口のきけない娼婦ラーダンを愛している。

最初はその展開の奇抜さに驚くが、シャキーブがセットのヒトラーの邸宅に泊まると逃げてきたラーダンをそこに匿って彼女の命が危なくなるあたりから、ちょっとやりすぎの展開に興醒めする。貧困層が映画作りに関わってしまい、映画人たちのエゴがあらわになる設定はおもしろいのだが。

この3本はいずれも「アジアン・プレミア」だが、かなり変わった映画でどれも異様な展開を狙ったシナリオがどこかうまくいっておらず、個人的にどうしても映画を楽しめない。これはディレクターの市山さんの悪趣味かもしれない。

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