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2022年10月13日 (木)

古賀重樹著『時代劇が前衛だった』のおもしろさ

日経新聞の映画担当編集委員で友人(で苗字が同じ)古賀重樹さんの『時代劇が前衛だった』を読んだ。新聞記者のいいところは、新聞に書くと言えば誰でも会ってくれることで、彼が2010年に出した『1秒24コマの美』にはパリでエリック・ロメールが溝口健二について語ったコメントまであった。

前の本は黒澤、小津、溝口をめぐるもので、絵画との関係が中心だったが、今回は京都の映画人、とりわけ時代劇を作った牧野省三、衣笠貞之助、伊藤大輔、伊丹万作、山中貞雄を分析している。

これらの監督を論じるのが難しいのは、現存作品が少ないからだ。ところが最近発見された作品も増えていることもあり、専門家や関係者の話をつないでそれぞれの映画人をくっきりと浮かび上がらせることに成功している。

例えば牧野省三に始まる、マキノ雅弘から津川雅彦(監督としてはマキノ雅彦)の三代について語る時に、子役で出演した時の話を津川雅彦から聞く。マキノ雅弘はものさしで頭を叩き「そんなまばたきをするようじゃ主役は務まらん」と鍛えたという。

溝口の『山椒大夫』に出た時には、溝口に「出番がない時にも来なさい」と言われて学校に行けず落第が決まった。すると雅弘は津川さんを連れて大映に乗り込み、溝口に謝らせたという。「溝口はハンチングをとって、「ぼうや、ごめんなさい」と言ったという」。こんな話は知らなかった。

衣笠貞之助についても新発見があった。『狂った一頁』を作った時の「新感覚派映画連盟」という団体名は報知新聞のスクープから生まれたことや、無字幕になったのは横光利一のアイデアによることも私は初めて知った(知られた事実かもしれないが)。「国立映画アーカイブに残された台本やメモは『狂った一頁』の現場の共同作業を物語る」。見たいなあ。

エイゼンシュテインが衣笠貞之助に書いたメモが発見された話もびっくりした。『十字路』を持って欧州を回った時に衣笠はエイゼンシュテインと共に左団次の歌舞伎を見ている。戦後カンヌでグランプリを取った『地獄門』の「色彩指導」に洋画家の和田三造が参加していたのは知っていたが、和田が作った「日本色彩研究所」に『地獄門』のために試作した「肌色色票」が今も残っていたのにもびっくり。

美術助手だった西岡善信は「衣笠さんみたいに仕事ができたら楽しいだろうな」と言った。「半分は趣味、半分は仕事、若き日には外国まで行って遊んだ。趣味の深さが違う」。考えてみたら、西岡善信も津川雅彦も今はいない。この本によって、彼らの証言が永遠に残る。

そういえば、『地獄門』のフランスでの評価をめぐる論文を私は前に書いていたので、彼に渡そうと思う。

 

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