「国宝 東京国立博物館のすべて」を見て
何といってもトーハク(東博=東京国立博物館)は日本の美術館・博物館の頂点にある。だから「東京国立博物館創立150年記念 特別展」と銘打った「国宝 東京国立博物館のすべて」はぜひ見たいと思った。ところがHPを見ると、事前予約制で予約は11月末まで一杯だった。そうなるといよいよ見たくなったが、運よく夜間開館の追加分のチケットが取れた。
日本には国宝が902件あり、そのうち東博には89点があるという。そのすべてを見せるというのが今回の目玉だが、私にとってはそのうち書と刀剣はほとんどありがたみがわからない。さらに硯箱のような工芸もいま一つピンとこない。
やはり絵画が一番楽しめるけれど、紙に描かれた絵は作品保全のために展示期間が限られている。私が「東博の国宝」ですぐに思い出すのは雪舟の《秋冬山水図》と等伯の《松林図屛風》だが、この2点の展示は既に終わっていて残念。
その代わりに強く印象に残ったのは、平安時代の《地獄草子》と《餓鬼草子》。地獄で火に焼かれて逃げ惑う人々や人骨を食い漁る餓鬼の姿が、震えるような壮絶な線でくっきり描かれていて恐ろしくなった。これは広げて全部見たかった。
岩佐又兵衛の《洛中洛外図屏風》は、清水寺や二条城など京都のあちこちが鮮やかな色彩で描かれていて見飽きない。今とあまり違わない風景に驚く。問題はそう思ってじっくり見る人が多く、とにかくゆっくり見るのが難しいこと。何年か前に京都文化博物館で「洛中洛外図」を集めた展覧会を見たが、もう一度見たくなった。
池大雅の《楼閣山水図屛風》は、日本の絵師がここまで中国風の絵を描けるのかと驚く。湖から大きな河に注ぎ込む壮大な風景は、どう見ても日本ではありえない。そして山の中の小さな家で文人たちが酒を交わす。中国的な理想郷を江戸時代の日本人が思い描いていたのかと不思議になる。
書は日本のものと中国のものを合わせると10点以上だが、いかんせんわからない。中国人の描いた絵画もあって、因陀羅筆の《寒山拾得図》など興味深かったが、純粋な中国作品が日本の「国宝」となるのかと改めて驚く。法隆寺の宝物も、硯箱の類もよくわからない。
全期間展示の刀剣は20点ほどあったが、お手上げである。しかしここは妙に若者で盛り上がっている。よく見るとスマホで武士の格好をしたゲームやアニメの主人公と比べているので、そういう流行もあるのかとびっくり。若者が多いのは夜間開館のせいかと思ったが、刀剣人気もありそうだ。
考古では埴輪の《挂甲の武人》(6世紀)が素朴で本当に国を守っている感じがあってよかった。実を言うと後半の「東京国立博物館の150年」の方が私にはおもしろかったが、これは後日書く。
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