『土を喰らう十二カ月』に唖然
今年一番落胆した映画は、劇場で見た『土を喰らう十二カ月』だろう。中江裕司監督は『ナビィの恋』(1999)や『ホテル・ハイビスカス』(2003)が好きで、2019年のドキュメンタリーの小品『盆歌』も十分に楽しんだ。
そのうえ、新聞の映画評では「日経」で村山匡一郎さんが「新境地を見せている」と絶賛しているし、「朝日」で金原由佳さんもほめていた。信頼する2人だけに、安心して見に行った。
ところが、出だしの都心から山へ向かう車とそこにかかるジャズから乗らなかった。車で山に着いたのは編集者役の松たか子で、山荘に住むツトムこと沢田研二が出迎える。そして沢田研二はサツマイモを煮て、松たか子が「おいしい」と嬉しそうに食べる。
あれ、芸能人が出る料理番組かと思った。沢田研二はあくまで本人のままで、かいがいしく料理は作ってはいるが、どう見てもスターのまま。山田洋次監督の『キネマの神様』の彼もうまくなかったが、これに比べたらずっとよかった。彼は万年筆で何やら書いているが、全く作家に見えない。
沢田研二はいつも亡妻の写真(実はプロデューサーの彼女だった!)を飾り、近くに住む義母を訪ねて味噌をもらう。妻の弟夫婦(尾美としのりと西田尚美)は母が苦手でその葬式も任せてしまう。この夫婦の演技があまりに誇張されている。沢田が小さい頃に修業した禅寺の師匠の娘が訪ねてくるが、この役の檀ふみもまたわざとらしい。
松たか子は時々やって来るが、沢田に「一緒に住もう」と言われて躊躇する。ある時沢田は心筋梗塞で倒れるが松の活躍で一命を取りとめる。松は一緒に住もうと言うが、沢田は断る。そして終盤で松は自分が結婚することを告げる。終わった時、唖然とした。
確かに沢田の料理の場面は悪くない。畑から取ってきたばかりの野菜をきちんとアクを取って、野菜そのものを味わうような料理の数々。しかし山から取ってきた山菜やキノコはともかく、なすや白菜はきちんと植えて育てないとダメだろう。しかし沢田が種を植えたり水をやって育てたりする場面は全くない。
畑で亀が動いたり、小川をメダカが泳いだり。確かにそういう生活は憧れるけれど、山の中の一軒家に一人で住むのはそう簡単じゃないだろう。しょせん沢田研二は用意された最高の自然食材を、料理監修の土井善晴に教わった通りに体を動かしているだけという感じがした。だから最後まで芸能人の料理番組にしか見えなかった。
それはともかく、田舎の生活には憧れる。しかし一軒家で農業も料理もすべて自分でやったら、ものを書く暇はなかなかなさそうだ。
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