次はフィルメックスの奴隷に:その(2)
本当に幸か不幸か、フィルメックスの日程が少しずれていて秀作を見ることができた。コンペのインドネシアのマクバル・ムバラク監督の第一回長編『自叙伝』は、18歳の青年が村の実力者に仕えながら悪事を経験してゆくさまを夢幻的に描く。
ラキブの父親は刑務所におり、彼は父に代わって家主の邸宅を維持管理していた。そこに地元の首長に立候補するために「将軍」と呼ばれる家主のプルナが帰ってきた。彼は水力発電を推進しており、選挙演説でも訴える。
ある時プルナは自分の選挙ポスターが汚されているのに気がついて、ラキブに調査を頼む。ラキブはお金を使って犯人の高校生を探し出す。その家族は水力発電に反対していたことがわかると、プルナは高校生を呼んで暴力を振るう。ラキブはそうした力づくの支配に気がついて抜け出そうとするが、それは容易ではなかった。
映像はラキブの視点から撮られ、まるで彼の不安な心理状態を写すかのように揺らぎを見せる。知らないうちに悪の権力に加担してしまった若者の苦渋をしっかりと捉えた力作だった。昨晩発表されたが、この映画は最優秀作品賞となった。
『在りし日の歌』のワン・シャオシュアイ監督の『ホテル』は特別招待作品。コロナ禍の影響でチェンマイのホテルに足止めされた宿泊客たちの間に次第に巻き起こる波紋をスタンダードの白黒画面で淡々と描く。20歳の娘ソヴァは中年男性の「ユン先生」に興味を持つが、若いタイ人の男性とも仲良くなる。
ユン先生は、同行している妻と長年の不和をどうにかすべき時に来ていた。その妻は若い美術教師と仲良くしており、今でも家出しそうだ。タイ人の男性は聾唖の中年の中国人の世話をしているが、その関係は近すぎて微妙なものになっていた。途中からソヴァは母と来ていることがわかる。
3組の不思議な人々が中国に帰国できず、マスクをしながら他人ともできるだけ会わずに過ごす。ソヴァの母はなぜ20歳の誕生日に彼女をこのホテルに連れてきたかを語る。そこからびっくりするような事実が立ちあがる。さすがベテラン監督だけあってうまい。これは十分に商業公開が可能だろう。
結局のところ東京フィルメックスでコンペを3本、招待作品を1本見たが、どれもハイレベル。東京国際映画祭に比べると少し観客を選ぶ作品が多いが、昨今のアジア映画の充実ぶりからすると同時期に2つ映画祭があっても十分にいい作品を選べると思った。
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