次はフィルメックスの奴隷に:その(1)
東京フィルメックスは2020年から東京国際映画祭と同じ時期の開催になった。そうなると東京国際映画祭を優先して見るが、今年は時期が微妙にずれている。東京国際映画祭が10月24日(月)から11月2日(水)なのに、東京フィルメックスは10月29日(土)から11月6日(日)となった。
すると東京国際映画祭が終わってから4日もある。最初は、東京国際映画祭でコンペ15本プラスアルファを見たらもう疲れて見る気がしないだろうと思っていた。ところがフェイスブックでホアン・ジーの『石門』が傑作だったと友人が書いているのを読んで、急にフィルメックスに行きたくなった。
まず東京国際映画祭のクロージングの直前にアリ・チェリ監督の『ダム』を見た。ベイルート生まれでパリ在住のビデオ・アーティスト、映像作家の第一回長編という。確かに現代美術の展覧会で見る映像展示に近い。マヘルはダムで働いて川の水と泥で煉瓦を作っているが、一方で1人で不思議な人形のようなものを作っている。
ダムの労働者たちのリアリズムと彼が作る巨大な土の人形の世界の対比がおもしろい。全体として砂漠の民の哀しみのようなものが寓話的に伝わってくる。確かにこれは観客を相当に選ぶ映画で、東京国際映画祭向きではない。80分の映画だが、半分の長さなら美術館の展示向き。
次に見たのがホアン・ジーと大塚竜治の共同監督の『石門』。中国で撮影された映画だが製作は「日本」と書かれている。実は中国映画と思って見ていたら女性の裸の胸が出てきたので驚いたが、製作が日本で中国で上映する予定がなければ問題がないのだろう。既にヴェネチアで上映済みだが中国映画だとそれも無理だろう。
映画は20歳のリンが金持ちのボーイフレンドの子供を宿して苦しむ姿を描く。ボーイフレンドには堕胎しろと言われるが、田舎で出産して子供を売ろうと思いつき、母親とその準備をする。リンは客室乗務員になる専門学校に通っているが、その授業や彼女が引き受けるバイトなど毎日が凄まじいまでに悲惨だ。
さらに終盤、2020年1月にコロナ禍がやってきてからの展開が本当にあったことのように見える。裸の女性だけでなく、これほど中国の醜さをさらけ出したら上映許可は下りないだろう。これまた東京フィルメックスならではの1本だった。
そういえば、東京国際映画祭のクロージングでオリヴァー・ハーマナス監督『生きるLIVING』を見た。黒澤明監督の『生きる』のリメイクだが、これを1952年のロンドンに移しているのがすごい。中年の課長は『生きる』の志村喬と違っていわゆるジェントルマンだが、無気力なのは同じ。
バイトの女性と待ち合わせるのが、フォートナム&メイソンだったり、一緒に見る映画がハワード・ホークスの『僕は戦争花嫁』だったりと楽しめる。終盤の「命短し恋せよ乙女」も別のイギリスの歌でそれなりに盛り上がる。私は十分に楽しんだが、一緒に見たフランス人女性は「名作の冒涜だ」と怒っていた。
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