「領土と戦争」から:『アルジェの戦い』から『望郷』へ
私の学生が企画する映画祭「領土と戦争」が今日から渋谷のユーロスペースで開催される。私は明日ジッロ・ポンテコルヴォ監督『アルジェの戦い』の後にトークをするので、いろいろ調べている。フランス人にとってのアルジェリアとは何なのか。
フランス人のアルジェリア表象として最も有名な映画は、おそらくジュリアン・デュヴィヴィエ監督『望郷』Pepe le Moko(1937)ではないだろうか。ジャン・ギャバン主演で1940年の「キネマ旬報ベストテン」第1位である。
ギャバン演じるペペは、フランスで犯罪を重ねた後にアルジェリアの首都、アルジェのカスバと呼ばれる地区に身を隠している。ここは地元民が折り重なるように家を建てた狭い通りの密集地区で、ここに逃げ込まれたら警察も手が出せない。アルジェリアは当時フランスの植民地で、パリ警察はペペを何とかして逮捕しようと試みる。
まず地元警察のスリマン刑事と手を組み、さらに何人かのアルジェリア人に金を渡してスパイをさせた。金をもらったレジスはペペが可愛がっていた若いピエロを騙して連れ出し、ペペを狙うがうまくいかない。半殺しの目にあって帰ってきたピエロを見て、ペペはレジスに復讐をする。
ペペは愛人イネスと2年ほど暮らしていたが、パリからやってきた金持ちの夫人、ギャビ(ミレイユ・バラン)に出会い、双方が一目惚れする。ペペはギャビとパリの話を始め、同じゴブラン地区の出身だと知って盛り上がる。ギャビがペペに会いにカスバに再び赴くと、イネスは嫉妬に駆られる。
次の逢引きの前に、スリマン刑事はペペが死んだとギャビに伝える。ペペは手紙を書くが、その手紙はスパイのアルビ(マルセル・ダリオ)によって持ち去られる。スリマンはペペにギャビが帰国すると伝え、ペペはカスバを出て港に行く。イネスはスリマンにペペが船に向かったと密告してペペは逮捕され、ギャビが乗る船を見ながら手首を切る。
この映画のポイントはペペがギャビを好きになったのは、何よりパリへの「望郷」の念だったということ。「シャンゼリゼ、モンマルトル」とパリの地名を言うごとに気分が高まる。一方でアルジェリア人らしいイネスはペペを心底愛していて嫉妬深く、ペペはそれに飽き飽きしている。裏切るのはスリマン刑事を始めとしてみんなアルジェリア人。そのうえ、それらを演じているのはフランス人の俳優。
ペペもピエロもアルジェリアの女に深く愛されていた。つまり征服した国の男が植民地の女にモテるという、西部劇にもあるような典型的なパターンで、植民地的なエキゾチズム幻想である。このような植民地でパリを懐かしむ身勝手な男の心理を描く映画が、日本を含む世界中で愛されたのだからすごい。まさにサイードの『オリエンタリズム』である。
たぶん今ではこの映画のこうした面からの研究はいくらでもあるのだろうが、この映画をアルジェリア人はどう見たのか、興味がある。
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