『モリコーネ 映画が恋した音楽家』に心躍る
ドキュメンタリー映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』を劇場で見た。イタリアの映画音楽の巨匠をめぐるものだが、さすがにジュゼッペ・トルナトーレ監督で見応えたっぷり。映画好き、特にイタリア映画好きにはこたえられない場面がいくつもあって心が躍った。
一番好きだったのは、タヴィアーニ兄弟が語っている場面。彼らは二人が競うように次々に話す。『アロンサンファン 気高い兄弟』(1974)の有名な冒頭の音楽をモリコーネが口ずさむ場面の後に、タヴィアーニ兄弟が声を揃えて歌い出す。それは映画のシーンにつながって、マストロヤンニが出てくる。
もう一つは、ベルトルッチ監督が実に嬉しそうにニコニコしてモリコーネとの仕事を語るシーン。そしてそれがあの『1900年』(1976)の壮大な出だしに繋がってゆく。この傑作の魅力は、モリコーネの音楽なしでは考えにくい。終盤、農民たちがぼろきれを繋いだ大きな赤い旗を持って走るシーンに涙した。
実はこの3人は、2001年11月から4カ月やった「イタリア映画大回顧」のために「朝日」の石飛徳樹記者とインタビューをしたことがある。私はインタビューをカタログに載せ、石飛記者は「マエストロに聞け」という連載記事にした。それもあって懐かしかったが、ベルトルッチとタヴィアーニ兄弟の兄ヴィットリオは2018年に既に亡くなっている。
つまり2021年のベネチアに出されたこの映画は、そのずっと前に撮影されたことになる。映画を見ていると実にたくさんの監督や音楽家が出てくるし、なん十本という映画が引用されるが、じっくりと時間をかけて作られた跡が感じられる。
驚いたのはセルジオ・レオーネとの関係である。ローマの名門、サンタ・チェチリア音楽院を出たモリコーネはレコード会社RCAの専属編曲者として活動していたが、1961年からマカロニ・ウエスタンの音楽を手がけ始める。そこで『荒野の用心棒』を準備中のセルジオ・レオーネが連絡して来たが、彼らは小学校の同級生だったことが判明して互いに驚いたという。
それからレオーネの西部劇はモリコーネなしではできなくなる。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)では、モリコーネが作曲した曲を流しながらレオーネが俳優に演技をさせる場面まで出てくる。確かにレオーネの西部劇はモリコーネそのものだ。
それから興味深かったのは、彼が名門音楽院を出ながら映画音楽を仕事にしていることに長い間劣等感を抱いていたこと。まさかと思うが、それはトランペット奏者だった父親から来たのかもしれない。父は彼にトランペットが吹けたら大丈夫と教えてきた。続きは後日(たぶん)。
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