『小さき麦の花』に考える
2月10日公開の中国映画『小さき麦の花』を試写で見た。監督のリー・ルイジュンは『僕たちの家に帰ろう』が公開されているが、見ていない。それでも早く見たいと思ったのは、昨年のベルリン国際映画祭での「星取表」で最高の4.7点を得たが無冠だったと書いてあったから。
「星取表」はカンヌなど国際映画祭が毎日発行する映画祭日報に載るもので、10人ほどの新聞記者やジャーナリストが点をつける。映画祭本体の賞は、監督や女優などの考え次第でこの星取りとは全く違う賞結果になることが多い。私がカンヌやベネチアで受けた印象だと、おおむね賞よりも星取りの方が当たっている。さらにこの映画は中国で若い世代を中心にヒットして興収20億円を超えたというのも気になった。
欧米の評論家に評価され、中国の若者が好きになった映画とはどんなものか。見てみると、その謎は半分解けた。欧米で受けた一番の理由は、資本主義を拒んで農業を続け自分たちで家を作る夫婦への憧れだろう。厄介者同士が周囲の勧めで結婚させられるが、彼らは仲良く畑を耕して野菜を育てる。
特にすごいのは自分たちで家を作るところ。国の政策で空き家を処分すると助成金がもらえるために、大家は彼らを追い出す。別の空き家に移ってから、彼らは自分で家を作り出す。まずレンガの土を集めてこねて枠に入れて四角にする。それを何日も太陽に干してレンガを作り、それを重ねて間を土で詰めて壁にしてゆく。大雨で並べたレンガが流されそうになると、2人は雨に濡れながら必死で覆いを被せて雨から守る。
そしてできた家で妻が「自分の家を持てて、自分の布団で眠れる日が来るなんて」と言って喜ぶと、見ていて本当に嬉しくなる。そうしたシーンには実に美しい光が使われている。ほかにも死者の供養のために紙のお札を燃やすシーンや室内でいくつもの穴を開けた段ボールから光がもれるシーンなど、光を使った演出が印象的だ。
彼らは最初の結婚から、決して他人に逆らわない。BMWに乗る地主に輸血を頼まれると、夫は逆らわずに何度も引き受ける。しかしながら地主が用意する豪華な食事には手をつけない。ラストの結末もみんなの言いなりだ。現代にはないその従順さと潔さも欧米の評論家に受けた理由だろう。
では中国の若者が評価した理由は何だろうか。中国人留学生に聞いたら、この映画は「社会派」として評価されたという。農村回帰が社会派なのか、そのあたりはわからない。ただ、現代の中国で恐ろしい勢いで進む資本主義の中で、若者はこの映画の2人に安堵を覚えたのではないかと思う。
私も丁寧に撮られた力作だと思うが、リアリズムというより、ある種のファンタジーではないかという気がした。あそこまで体が弱った妻が一度も病院に行かないのはありえないのではないか。夫婦の愛情に肉体的要素を排除しているのも、ファンタジーのためだろう。それゆえに現代のお伽噺として受けたように思える。
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コメント
このラストシーンですが、言いなりになって町にむかったのではないようです。
台湾の友人がWEBなどで調べてくれたのですが、当初の撮影では、このヨウティエ(妻を亡くした男)は、最後に毒を飲むのです。
しかし、当局の指示なりがあり、そのシーンを削ったそうです。
わざと「甥っ子に町に行くのか」と言わせて、そう見せただけだと思います。 ご参考になれば幸いです。
投稿: Minako | 2023年3月 1日 (水) 13時20分