『逆転のトライアングル』に「笑えるか」
2月23日公開のリューベン・オストルンド監督『逆転のトライアングル』を試写で見た。去年のカンヌでパルムドール受賞作でもあり混むかと思ったが、3回しかない試写なのに半分くらいか。みんな、もうオンライン試写がいいのだろうか。
「現代の超絶セレブを乗せた豪華客船が無人島に到着。そこで頂点に君臨したのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃婦だった」というのがチラシのメイン・コピーで、「この転覆劇、あなたは笑えるか?!」とも書かれている。
上映中に笑っている人も複数いたし上映後に「すごくおもしろかった!」と楽しそうに言っている女性もいたので「笑える」人は多いと思う。しかし私はあまり笑わなかった。
全体は3つのパートに分かれる。1は「男性モデル」で、まず男性モデルのオーディションの場面が出てくる。白人を中心にアジア系やアフリカ系の上半身裸の男たちが20名ほど出てくる。みんなイケメンで体つきもいいが、それぞれに「ある個性」があるのが特徴だろう。コーディネーターのような男の質問に答えながら、さまざまなポーズを見せつける。
次は高級レストランのシーン。男性モデルの1人、トーマスはヤヤと一緒にいるが、食事が終わって支払いをめぐって小さないさかいが起こる。トーマスはお会計にカードを置いた後、「昨日、君は払うと言ったじゃないか」。すると「えっ、会計の紙が見えなかったのよ」。よくありがちな行き違いはエスカレートする。
2つめのパートは「ヨット」。そこにはまずアル中の船長のもとに「何でも客の言うことを聞く」白人のスタッフたちがいて、さらにアフリカ系の料理人や機関室の労働者、フィリピン人の掃除係の女性たちがいる。そこに集う連中は、妻と若い愛人を連れたロシアの新興財閥の男や、武器を製造していると静かに話す上品な英国夫妻、1人で来て若い女を探す金持ち中年男など。
ヤヤはモデルでもあるがインフルエンサーで、このクルーズも無料での招待だとわかってくる。船長が客をもてなす「キャプテンズ・ディナー」が始まって料理が運ばれた頃、船は嵐へ突入する。乗客は船酔いで食べたものを次々に吐き出すが、船長は酒を飲み続ける。
3つめのパートは「島」で、船からある無人島へ流れ着いた8人を描く。トイレの掃除係だったアビゲイルは海に潜り魚を取って、火を焚いて調理するが、ほかの男女は何もできない。彼女は「ここでは私がキャプテン」と宣言し、全員を支配する。
すべてのシーンは極端に誇張されてリアリティはないし、ドラマもあえて大味につないでいる。しかしノリのいい音楽と共にその誇張が肉体的に働きかける。そこにどこか現代の悲喜劇が浮かびあがり、「笑える」のだろう。その意味で21世紀の新しい映像かもしれない。
私は、これまたカンヌで金獅子賞を取った前作『ザ・スクエア 思いやりの領域』は大いに楽しんだ。私に馴染み深い美術館が舞台だったからかもしれない。今回のファッション・モデルや豪華クルーズや孤島のサバイバルにはあまり興味なかったせいか、終始冷めた目で見ていた。この映画に「笑えるか」は、重要かもしれない。
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