『モリコーネ 映画が恋した音楽家』に心躍る:続く
ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『モリコーネ 映画が恋した音楽家』を劇場で見てずいぶん興奮したが、忘れないうちに書き足して置く。これはパンフに前島秀国氏も書いているが、彼には2人の「父」がいた。1人は本当の父親でトランペット奏者だったが、息子にもトランペットが弾けたら食っていけると教えた。
彼は映画音楽家として名を挙げた後も、父親が生きている間はトランペットを中心にした曲は作らなかった。作れば父親に弾かせないと申し訳ないと思ったからだと語っていた。母親も仕事のなくなった父に何かないかと頼んでいた。
ローマの名門音楽院に入ったモリコーネは父の意に反して作曲科に進む。もう一人の「父」はそこの主任教授、ゴッフレード・ペトラッシ。私はその名を知らなかったが、前島氏によればイタリアの現代音楽の父のような存在のようだ。ペトラッシはモリコーネが映画音楽に進んだことを快く思っていなかったが、モリコーネは映画で音楽を作るごとにペトラッシを招待する。
この映画でモリコーネと仲良く一緒にいるシーンが何度か出てくるのはこのペトラッシと盟友セルジオ・レオーネと妻のマリアである。妻のマリアに対しては終生愛情を持ち、名誉アカデミー賞を取った時にも「妻のマリアに捧げます」と言うほどだ。妻はインタビューには出てこないが、モリコーネは曲を作るとまず彼女に聞かせたと語っている。
さてペトラッシに戻ると、実は彼も映画音楽をやっていた。それがネオレアリズモの傑作『にがい米』(1949)だったので笑ってしまった。あの後半のいささか強すぎる音楽が、モリコーネの師匠のものだったとは。
この映画がいいのは、イタリア人が監督しただけあって、イタリア映画に実に目配りが効いていること。モリコーネは2人の天才監督の初期作品を手がけている。ベロッキオのデビュー作『ポケットの中の握り拳』(1965)とベルトルッチの2本目『革命前夜』(1964)。どちらもかなり前衛的な音楽が入るが、この時期に大量のマカロニ・ウェスタンに音楽を提供しながら、これらもやっていた。
ジッロ・ポンテコルヴォ監督の代表作『アルジェの戦い』(1966)の強烈な音楽も彼のものだったとは。そのほか、リリア―ナ・カヴァーニ、エリオ・ペトリ、ジュリアーノ・モンタルド、ヴァレリオ・ズルニーニ、カルロ・ヴェルドーネなどの未公開作品もどんどん紹介される。
セルジオ・レオーネと違って、残酷さを正面に出した暗い西部劇を量産したセルジオ・コルブッチの『殺しが静かにやってくる』(1967)も彼だったとは。『モリコーネ』はイタリア映画好きにとってはたまらない。DVDも買いたい。
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