本を売る:その(5)
ここに書いたように、吉祥寺の古本屋に美術展カタログと哲学書を中心に200余冊を売った。もう読むことはあるまいと思った本がほとんどだが、同じような感じにフランス語の本があった。私は大学の専攻はフランス文学で、将来フランス語の先生になろうと思っていたくらいだから、当時からフランス語の本は買い集めた。
モリエールやフロベールなど授業で一部を読んだ古典の文庫版を、福岡の丸善で買ったのが最初だと思う。卒論では詩人、劇作家、演出家、俳優のアントナン・アルトーを取り上げた。4年生の時に1年間パリに行ったので、ガリマールから出ていた彼の全集20数冊をすべて買った。さらにアルトーの研究書も4、5冊。
その頃になぜかレーモン・ルーセルもずべて買ったし、マラルメのプレイヤード版も買った。映画の本はもっと買ったが、今回は売っていない。それから美術展のカタログは、特にポンピドゥー・センターの「パリ・モスクワ展」「ウィーン展」「前衛芸術の日本展」などの外国をテーマにした分厚いカタログを買った。
そのほかヴェネツィアのグラッシ宮殿で見た「未来派展」の仏語版カタログとか、新聞社で仕事をした時にもらったポンピドゥー・センターの「レジェ展」とか「Figuration narrative」展とかルーヴルの「マンテーニャ展」とか。そして50冊ほどの文庫も加えた。さてどこに売るかだが、私は昔から仏語の本で有名な神保町のT書店を考えていた。
売る予定の本を集めてスマホで写真を4枚撮って、その書店にメールを送った。もし買ってくれるならば宅配便で送るが、査定は後でかまわないと書いた。ところが1週間たっても返事が来ない。電話したが出てくれない。ほかに売ろうかと考えていたらようやくメールの返事が来た。
「十分ご活用されていて保存状態に難がございます。また、マラルメは旧版です、
文章に棘を感じたが、ほかに当たるのも面倒なので送ることにした。大型本が多いので全部で4箱送ったが、何と5,600円かかった。これでは赤字だが仕方がない。送っても返事がないので2日後に「着きましたか」と催促のメールを書いたら、翌日ようやく返事が来た。
「全部で6,000円でございます。アルトー全集は不揃いで、全体の本にシミ・破れ・読後手垢等・書込みあり、プレイヤード版は旧版で茶バミがあります。大判の美術書、展覧会は興味深い本がございます」。丁寧ながら「読後手垢」とは。
辛うじて送料が出たので私は了承した。当時も高かった美術展カタログでどうにかなった感じ。先ほどフランスのアマゾンで調べたら「ウィーン展」1冊で60ユーロ、「前衛芸術の日本展」が50ユーロくらいだから、美術展カタログ全部で売値だと全部で3万円くらいか。吉祥寺の古本屋さんは「2000円で買って1万円で売る感じです」と言っていたし。
それにしても、フランス語の本がぞろりとなくなると、さすがに寂しい。私の一部は、確実にそこにあったから。
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