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2023年2月14日 (火)

久しぶりの都現美

久しぶりに東京都現代美術館(=現美)に行った。2月19日までの「ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台」展を見ておきたかったから。誰かが去年の良かったの展覧会の1つに挙げていたし、映像を中心にしたオランダの私と同世代の女性作家というだけで、見なくてはと思った。

ところがこれが私には大はずれ。社会的、歴史的な問題について話す多くの人々を写すだけ。オランダのブラジルやインドシナの植民地支配について、オランダの戦後の都市計画について、芸術の世界に今も存在するジェンダー・ギャップについて、あるいは日本で撮影された文筆家のジェンダーについて。

私は凡庸な映像作品は2、3分見ると飽きてしまう。絵画でもそうだけど。今回は7作品だったと思うが、それぞれが30分前後ある、ただ話すだけのそれらの作品を見る時間は私にはないと思った。「恵比寿映像祭」と同じで、映像として魅力がなければ仕方がない。「柔らかな舞台」といかにもな副題を付けた時点でセンスがないと思う。

その意味では、ついでに見た「クリスチャン・ディオール 夢のクチュリエ」展は見る者を楽しませる展示をしている点でずっとよかった。この元となった展覧会はパリの国立装飾美術館で見たし、もともとファッションはわからないから見るつもりはなかった。展示物はパリのものに日本との関係の部分を増やしたり、日本人写真家の写真を加えているが、展示自体はより効果的にできていた。

パリは狭い展示室をひしめき合いながら見る感じだったが、こちらは現美の広い空間をたっぷり使ってうまい。地下から2階に広がる吹き抜け空間に、長いひな壇を作って衣装を並べ、さまざまな照明を当てている部屋は圧巻だった。どの展示室も衣装以上に空間演出が効いていた。

日本との関係も興味深い。日本に紹介された最初のファッションデザイナーで、最初は大丸と鐘紡と契約して大丸の店内や帝国ホテルでショーを開いている。その時の写真で、日本人女性たちの食い入るように見る眼差しが時代を感じさせる。

それにしてもこの展覧会は、12月から5月までのほぼ半年で入場料は2000円。予約制で当日券は平日でも売り切れ状態だった。カタログは7000円近く、布のトートバッグが1万1千円。普通展覧会は長くても3カ月だから、たぶん借料をたっぷり払って現美を借りて、展示もカタログもすべて自前でやって儲けるという算段だろう。元ランカイ屋はすぐそんなことを考えた。

その後に常設展を軽く見た。同じ今期の展示を既に一度見ているが、菊畑茂久馬のインスタレーション《奴隷系図》や中西夏之の「洗濯バサミ」シリーズ、河原温のニューヨークから送った絵葉書、遠藤利克の巨大な焼いた炭の木管、宮島達男の赤い発光ダイオードの数字などを見るだけで、やはり嬉しくなる。そこには、オランダの映像作品にもディオールの展示にもない「強度」があったから。

 

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