『午前4時にパリの夜は明ける』に泣く
最近、フランス映画がずいぶんよくなってきたのではないか。フランソワ・オゾン監督の『すべてうまくいきますように』もポール・ヴァーホーヴェン監督の『ベネデッタ』も傑作だった。4月21日公開のミカエル・アース監督『午前4時にパリの夜は明ける』を試写で見たが、何とも繊細で泣けてきた。
とくに今回のアース作品は舞台が80年代なので、私の学生時代と重なってさまざまな思い出が蘇ってきた。1981年春、私は病気で1年休学して1年遅れで1年生となったが、すぐに九州日仏学館に通って大学とは別にフランス語を学び始めた。
『午前4時にパリの夜は明ける』の冒頭には、1981年5月にミッテランが大統領になった時にパリの街中の熱狂が出てくるが、日仏で最初に教えてもらったベルギー出身のドミニック先生が「ミッテラン勝った、嬉しい!」と喜んでいたのを思い出す。映画ではパリに来たばかりの娘タルラが、地下鉄の行き方をランプが点灯して教えてくれるシステムを試す。これは私が最初にパリに行った1984年にもあった。
映画はミッテラン当選の熱狂の後に、1984年に移る。夫に去られたエリザベート(シャルロット・ゲンズブール)は面接でラジオ・フランスに行く。彼女を待っていたのはラジオのパーソナリティ、ヴァンダ(エマニュエル・べアール)で、すぐに採用が決まる。そこで働いているうちに訪ねて来たタルラと知り合い、家に連れて帰る。
シャルロット・ゲンズブールとエマニュエル・べアールというだけで懐かしい。特にエマニュエル・べアールは1980年代から90年代には圧倒的なスターだったが、その後あんまり聞かなくなってしまった。
タルラはエリザベートの娘ジュディットと息子マチアスと仲良くなり、映画を見に行く。彼らが行く映画館「エスキュリエル」は、13区でアート系なのに巨大なスクリーンを持つパリでは珍しい存在。私が2016年に半年パリに住んだ時は近くでよく通った。
彼らはアメリカ映画『バーディ』を見に行くが、始まった直後で入れてもらえず(頑固な映画館主がいい)、もう1つのスクリーンから出てきた人々の出口から逆行して映画館に忍び込むとエリック・ロメールの『満月の夜』を上映中。3人は上映後にパスカル・オジエの台詞を真似して笑う。
『満月の夜』は1984年の秋に公開したはず。私は初日に見に行った。そして公開後すぐに主演のパスカル・オジエが亡くなったこともよく覚えている。こんな具合で、80年代をパリで過ごしたおじさんにはたまらん映画であった。この映画については、もう一度書きたい。
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