イタリア映画史を書く:その(3)
普通の映画ファンの何倍もイタリア映画を見ているからといって、イタリア映画史を書くのは簡単ではない。見ていない映画は多いし、フェリーニやヴィスコンティなどの映画は一度はすべて見ていても、細部はほぼ忘れてしまった作品が多い。
私のやり方は、まずは日本語で手に入る3冊の映画史の本で見るべき作品を探すことから始まった。つまり飯島正『イタリア映画史』(1953年)、『世界の映画作家 イギリス映画史/イタリア映画史』(イタリアは吉村信次郎、1976年)、ジャン・カルロ・ブルネッタ『イタリア映画史入門』(邦訳は2008年)。
さらに2001年に自分がフィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)で企画した「イタリア映画大回顧」のカタログが役に立った。イタリア側の責任者だったチネテーカ・ナチオナーレ代表のアドリアーノ・アプラ氏の作品解説が実に的確。それからそこに書いてくれた小松弘さんの無声映画論、柳澤一博さんの70年代イタリア映画論もいい。
さらに西村安弘さんが作ってくれた18頁に及ぶ「イタリア映画日本公開年表」のリストが実に役立った。1908年から2001年夏までに日本で公開された映画の題名が映画祭上映も含めてイタリア語原題付きで載っていたことに今さらながら驚く。本を書きながら何十回もこのリストを眺めて公開の有無を確かめた。戦前の公開は全くネットにないので。
最初の原稿は2022年9月にできたが、その年の5月に出た『ネオレアリズモ イタリアの戦後と映画』も役に立った。これは美術史家が映画に写るものに戦後史を見るというタイプの本だが、とにかく私が未見の映画が多くて慌てた。ネオレアリズモの部分は既に書き終えていたが、いくつか書き足すことになった。
それらの本を参考にしながら、とにかくDVDを買った。国内ではコスミック出版から出ている10本2000円前後の「イタリア映画コレクション」全7巻が貴重だった。大半が日本未公開、あるいは未ソフト化が全部で70本。刊行時にさらに1巻が出て慌てたが。
それ以外はイタリア、フランス、アメリカのアマゾンから大量に購入した。全部で200本は超したと思う。とくに喜劇映画は日本であまり公開されなかったのでたくさん買った。「イタリア式喜劇」と呼ばれる1950年代から70年代までのイタリアの高度経済成長期を背景にしたブラックな喜劇は、ほとんどが今回初めて見た。
困ったのはマカロニ・ウェスタンとホラーで、もともと苦手なタイプ。専門書数冊を参考に、それぞれ20本強の代表作を見たがエログロ、暴力が多くて疲れた。1日に多い日で3本DVDを見る毎日で、一月ほど見続けては一週間で1章を書くという感じだった。続きは後日。
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