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2023年4月12日 (水)

『東京組曲2020』に考える

5月13日公開の三島有紀子監督のドキュメンタリー『東京組曲2020』をオンライン試写で見た。「ドキュメンタリー」と書いたが、フィクションのようでもある。映画でも最初に「これは半分ドキュメンタリー」と出てくる。

それは役者たちがコロナ禍で自分が置かれた状況を「演じて」、家族や身近な人に撮影してもらっているから。役者が実名で年齢付きで出ているのは間違いないが、あくまで現実を「再現」している点で「半分ドキュメンタリー」だろう。

普通のドキュメンタリーは、監督やカメラマンが対象を追いかける。もちろん撮影される側がそのことを意識する場合は多いが、何を撮るかどう撮るかは監督を始めとするスタッフが決める。だから撮られる側が「演じる」にも限界がある。

ところがこの映画は、2020年春のコロナ禍初期のことなので監督やカメラマンが出向いて撮影するわけにはいかない。撮影にあたって3つの条件を設けたという。1.監督との対話のなかで何を撮るか決める 2.撮影は自分か同居人 3.明け方の女性の泣き声8分を監督が撮影し、それを出演者は見て反応を記録する

そんな条件の中で出てくる役者たちはさまざま。スマホに話しかけ、酒のつまみを作る男。子育てで窒息しそうな女。出演作品の上映が延期になった女。在宅勤務をしながら写経をする女。夫の鬱に悩む女。故郷の母との会話に怒る男。実家に帰っても2週間隔離して過ごす女。医療関係の父母が別居した家に住む男などなど。

最初はわざとらしいなあ、と思った。ところが見ていると、だんだん「あるある」と思い出した。出てくる俳優たちはたぶん全員自分より若い。多くは舞台や撮影がなくなり、場合によっては仕事もなくしている。私のようにコロナ禍でも定職のある還暦オヤジとは違って、本当に苦しんでいる。その痛みが少しずつ沁みてくる。

もちろん10人を超す役者たちはどんな場面を撮るかを監督と事前に議論しているし、挟み込まれる東京の風景も含めて編集は監督によるものだから、別々の撮影でも全体としてコロナ禍の若い日本人たちの生き方が克明に伝わってくる。見ている時よりも、見終わってしばらくしてそのことを実感した。何年もたてば、この映画は2020年のコロナ禍の東京の空気感を写し出した映画として、残っていくのではないか。

 

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