「品がいい」とは:その(2)
前に、小津安二郎は品がいいと言う人が多いと書いた。彼の映画の登場人物も、演出方法も、そして監督自身の人柄も。日本で小津をめぐる最も重要な本を書いた蓮實重彦氏と吉田喜重監督はどちらも「品がいい」がかなり違う。
蓮實氏は会うまではとんでもない嫌味な人かと思っていた。村上春樹を「結婚詐欺師」と書いたり、劇作家の井上ひさしや文化人類学者の山口昌男をコテンパンに批判した文章を読んだから。そのうえ、かつて「助教授」だった頃はあごひげを生やしていて、これがまた「辛辣な評論家」に見えた。
ところが会って仕事をすると、極めて優しい繊細な方だった。服装は地味だがどこか上質な感じがあり、本物の「学者」とはこういうものかと思った。パリで会った時に驚いたのは、泊っているホテルが決して高級ではなかったこと。6区のどこにでもある3つ星ホテルだった。食事は東京でもパリでも、シンプルだが味の良い店に連れて行ってもらった。
そして義理堅い。私が『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』を書いた時にオビの推薦文をお願いしたら、読む前にOKしてもらった。ゲラをお送りして推薦文をいただいた時には、ちょっと皮肉めいた感想も書き添えてあったけれど。
吉田喜重監督は、とにかくいつお会いしてもたぶんヨージ・ヤマモトの黒と白の服に身を包んで、優雅な振る舞いだった。そして実に優しい態度と表情を周囲に見せていて、一種のオーラがあった。「朝日」の追悼文に彼がホテルニューオータニの会員制プールでその紳士ぶりが評判だったと書かれていたが、それは容易に想像できる。
東京で会う時はいつもホテルニューオータニの中の隠れ家のようなカフェで、パリでは小さいが実に趣味のいいホテルに泊まっていた。しかし仕事に関わることは実に厳しかった。私は何度も叱られたのはここに書いた通り。まさに「芸術家」という感じで会う時はいつも緊張した。
ところで前に書いた『學鐙』の一番最初の文章で、天文学者の池内了氏は「品のいい人とは、自分の主張に固執しない人、さまざまな意見があることを容認する人、自らの間違いに対して謙虚である人、自分の欲望を抑制できる人、というふうに言えるだろうか」と書いている。
しかしこれだと蓮實さんも吉田監督も当たらない感じがする。やはり「品がいい」は難しい。
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