留学生と見るシリーズもの:その(1)
前に書いたように、私が教える大学の大学院は中国人留学生が大半を占める。学部では日本映画を専門とする同僚がいるので、私は外国映画、主ににアメリカ映画、フランス映画、イタリア映画を扱うが、大学院では日本映画にせざるをえない。
日本に映画を勉強に来た中国人に、まさかイタリア映画を教えるわけにはいかないから。そんなこんなで日本映画を戦前から教え始めて3年がたった。戦前から始めて昨年度で1960年代半ばまで来たので今年はその次と思ったが、ふと思い返した。
今までは溝口健二、小津安二郎、成瀬巳喜男、山中貞雄、黒澤明、木下恵介、今井正、市川崑、増村保造、今村昌平、大島渚といわゆる巨匠の作品を中心として論じてきたが、これから漏れるものが多いのではないかということ。『ゴジラ』や『君の名は』もその中で上映したが、こういう大ヒットしてシリーズになったものが、思いのほかみんなおもしろがった。
少なくとも私の授業を取る留学生は、監督のスタイルや思想の作家性よりも、その中に込められた日本の当時の諸相や大衆の考えの方に興味を持つ。なぜ『ゴジラ』は作られたのか、『君の名は』はなぜ大ヒットしたのか、「すれ違いもの」をなぜ日本人は好きなのか、『青い山脈』の「戦後民主主義」はどこかおかしくないかなど。
そんなこともあって、今年はあえてジャンル映画とかシリーズものをやってみようと思った。当然ながら先ほど挙げたような監督の名前はない。だから私自身も全くくわしくない方面になるが、それもおもしろいかなと思った。とりあえずシリーズものの1本目を取り上げることにした。
いわゆる「社長シリーズ」の元祖は『へそくり社長』(1956年、千葉泰樹、東宝)のようである。森繫久彌が社長をやり、小林桂樹が秘書。これは最初正・続と撮られているが、両方見るとかなりおもしろかった。
東宝は会社員ものが得意だが、ここでは「三等社長」がテーマ。森繫久彌演じる社長は、創業者や創業一家ではなく、運がよく社長になった「雇われ社長」。この映画の場合は妻が先代社長の親戚だったから。先代社長の妻や娘(八千草薫)のほか小野田(上原謙)や赤倉(古川ロッパ)などの大株主がいて、社長はいつも不安。
戦後10年たって、日本にも西洋化の波が押し寄せている。妻が米は健康に悪いと言うので社長はパンを食べさせられて、「お米喰いたい」と嘆く。金持ちのスポーツとしてゴルフが流行り、愛人と会うのは資生堂パーラー。シネラマ、羽田空港、株の取引場なども出てくる。
社員慰労会もおかしい。その出し物である女性社員はイタリア歌曲を歌う。最後に登場するのが、社長の得意芸ドジョウすくいだが、これは妻にみっともないと禁じられている。妻は先代社長の妻に言われて、小唄を習えと命じる。森繁がドジョウすくいを始めたところで、妻と先代社長の妻が現れるから大騒ぎ。
さて留学生の反応はどうだったかは後日書く。これから小林旭の『ギターを持った渡り鳥』や加山雄三の『大学の若大将』もやろうかと考えている。
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