『メグレと若い女の死』のドパルデュー
パトリス・ルコントの映画は長い間見ていなかったが、ジョルジュ・シムノン原作、ジェラール・ドパルデュー主演の89分と聞いて、劇場に足を運んだ。公開中のダルデンヌ兄弟監督『トリとロキタ』は89分、この7日公開のダリオ・アルジェント監督『ダークグラス』は85分。
何だかベテランが次々と90分以内の佳作を作っている感じである。ダルデンヌ兄弟は永遠の社会派リアリズムだが、『メグレと若い女の死』はダリオ・アルジェントの『ダークグラス』と同じくジャンル映画なので、なおさら期待していた。
結果は『ダークグラス』ほどの冴えはないが、シムノンの刑事物の世界をたっぷり楽しんだ。巨漢で背広を着て丸い背中のドパルデュー演じるメグレ警部がいい。どこでも自分で現場に出かけてゆき、みんなに質問をする。一見ふてぶてしいようで、実は腰は低く、しかしどこまでも執念深い。
冒頭にドレスを着こんだ若い女が、明らかに場違いなほど金持ちの集まるパーティに現れる。彼女を見つけたパーティの中心にいる男女は、大慌てで会場から追い出す。翌日その女の死体が見つかる。5カ所も刺された跡があるが、身元がさっぱりわからない。
不似合いな高級ドレスがそのタグから1937年に作られたものであるとわかり、そのレンタル先を突き止める。彼女が住んでいた場所がわかり、名前のルイーズも判明。その人間関係に少しずつ近づいてゆく。パーティにいた怪しげな金持ちの青年ローランと婚約者ジャニーヌ、そしてその母が浮かび上がる。その秘密は、メグレがたまたま万引きを押さえた娘ベティの協力を得て、最後に一挙に解決へと向かう。
その過程で、妻との会話からメグレ警部にもかつて娘がいたことがわかる。メグレは寡黙に一つ一つ解きほぐしてゆく。田舎からパリに出てきて友達もなく生きるのに苦労した娘の無念を晴らそうとするメグレ警部の優しい思いが伝わってくる。
ルイーズ、ジャニーヌ、ベティのそれぞれの多難な生き方が、メグレ警部の捜査によって少しずつ浮かび上がってくる感じがいい。古めかしい昔の古き良きパリで、銃も車もアクションもなくメグレが歩くごとに闇の世界が少しずつ明かされる。
あくまでファンタジーのような世界で、あまりジャンルものというか、フィルムノワールの感じが弱かったのが少し残念か。見ながら1937年のドレスを「ずいぶん昔だな」というからいつ頃かと思ったが、帰ってネットで検索すると1950年代が舞台のようだ。その頃に作られたアンリ=ジョルジュ・クルーゾーやアンリ・ヴェルヌイユ、マルセル・カルネなどの監督たちによる映画の暗澹たる感じとはちょっと違った。
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