顔認証を始める
昔の人は写真を撮られるのを嫌がった。「魂が抜かれる」からという話だった。そんなことを思い出したのは、スマホで顔認証を始めたから。そんなものは世間ではみんなずっと前からやっているのだろうが、私は避けてきた。
1つには、自分の顔はよく変わるので認証されないのではという不安があった。ほかの人には同じに見えるだろうが、私の中では日によってずいぶん違うように思える。飲み過ぎた翌日は明らかにむくんでいるし、あまり眠れなかった朝は目が違う。何となく肌が赤い日もある気がするし、髪がうまくまとまらない時もある。
もう1つは自分の顔の情報がIT大手に握られることへの恐怖感で、こちらの方が強かった。写真ならばいいが、電子情報で顔を握られると、もはや悪いことはできない気がする。私はいつも詐欺師のようなことをしている気がしてならないので、何となくこの顔情報と口座番号や位置情報などが結びつけば危ない気がする。
顔認証を始めたのは、番号の書かれていない新しいクレジットカードを作ってそのアプリを入れたから。そのカードはセブンイレブンでは使うたびに5%が戻ってくるという。自宅から歩いて50mほどにセブンイレブンがあるのでよく使う。このカードを使うとタッチ決裁ができるのも早くていい。
そしてアプリにポイントが溜まると、スマホをかざせば支払いもできる。支払うたびに6桁のパスコードを入れていたら時間がかかるので、顔認証にしてみた。ついでにスマホ自体も顔認証にした。自宅ではうまく行ったが、コンビニではダメだった。店の人から「マスクを取ったらいいのでは」と言われてやってみるとOK。
友人に聞いたら顔認証でマスクを外すのは常識とのこと。たぶん会社員なら周囲が教えてくれるが、大学の教師は身近に教えてくれる人が実はいないから次第に時代遅れで非常識になるのだろう。それにしても、これで顔と名前と購入記録がどこかに蓄積されてゆく。
近未来を描いたイタリア映画(イタリア映画祭のオンラインで見たが、題名が出てこない)で主人公が「お前が毎日どこで何を買って何を食べているかは全部把握してあるから、次の行動も予測は簡単」と言われるシーンがあったが、それに近づいている気がする。
ジョージ・オーウェルが1949年に書いた未来小説『1984』には、あらゆるところに双方向スクリーンとマイクがあった。監視カメラは今ではあちこちにある。還暦を過ぎると、顔認証くらいで大騒ぎになる。
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