宝田明の自伝を読む:その(1)
連休でイタリア映画祭に通いながら、宝田明著、のむみち構成『銀幕に愛をこめて 僕らはゴジラの同期生』の文庫を読んだ。のむみちさんのインタビューに答える形で進むので、実に読みやすく、映画の合間に読むのに便利だった。
宝田明という俳優は、実は私の中ではあまり評価は高くなかった。「東宝のハンサムな俳優」くらいの認識で、顔も名前も知ってるけど特に注目はしていなかった。黒澤明にも溝口健二にも出ておらず、小津安二郎は1本だけだし、成瀬巳喜男作品には何本も出ているがあまり印象に残っていなかった。
ところが、2022年3月に亡くなられる少し前にお会いすることになった。21年12月、学生企画の映画祭「中国を知る」で『香港の夜』(1961)を上映した時に、トークをしてもらった。最初は学生が事務所を通じて依頼していたが、金額が折り合わなかった。ところが映画祭直前になって、のむみちさん経由で本人が来たがっていると学生に連絡が来た。
おいでになるなら大歓迎と伝えると、時間通りに本人がやって来た。東急本店の駐車場に車を置いて歩いて坂を上がって来られる姿を見た時は、本当に驚いた。映画も見たいとのことで席を用意し、上映前に紹介すると舞台で挨拶をされた。上映後は実は当時の同僚の田島良一さんのトークの予定だったが、彼が聞き手として話を聞く形になった。
話は共演した香港のスター、尤敏(ゆうみん)とのエピソードなど抜群におもしろく、観客は大喜びだった。帰る時も同じように東急本店までスタスタと坂を下って行かれた。数日後の2度目の上映も、体調が良ければ来るかもしれないとのことだったが、実際にまた来られた。その時も上映前の挨拶と上映後の学生司会のトーク。
スラリと背が高く歩き方や表情など実にエレガントで、やはり往年の大スターを感じさせた。それでいて私や学生に対しても腰が低く、丁寧な方であった。実は『香港の夜』もそうだが、『ゴジラ』も含めて彼の出た映画の多くは私は大学に移ってから見た。かつては東宝のヒット映画には全く興味がなかったから。
学生につないでくれた、のむみちさんは「名画座カンペ」で名前を知っていた。そのほか、古い日本映画をめぐる座談会でも名前を見た。この本によれば野村美智代さんで、本業は古書店勤務らしい。この本ではインタビュアーのほか、あちこちに監督や俳優の説明など映画史的解説を加えているので、実にわかりやすくできている。中身は次回。
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