朝日ホールに戻ったイタリア映画祭:その(5)
5時間半の大作『夜のロケーション』についてもう一度書く。この映画を見て同じベロッキオ監督の『夜よ、こんにちは』を思い出したと書いたが、ほかにも想起した映画があった。マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督の『輝ける青春』は、『夜よ、こんにちは』と同じ2003年に作られた6時間6分の大作だ。
こちらは1960年代から21世紀初頭までのローマのある家族を中心に描く「大河ドラマ」だが、モーロ事件に代表される「鉛の時代」が克明に描かれている。主人公ニコラ(ルイジ・ロカーショ)が結婚した女性はテロリストになってしまうし、妹の夫はイタリア銀行幹部でテロリストに狙われる存在だった。
その夫役が、『夜のロケーション』でモーロ前首相を演じたファブリツィオ・ジフーニだった。背が高くエレガントなジフーニは、『夜のロケーション』では家族を愛し、孫が大好きな姿を見せる。その彼が冒頭で、痩せて髭が伸び放題で病室のベッドに倒れた姿で出てくる。ここに首相、内相、党書記長がやってきて、モーロの言葉がナレーションで聞こえる。「赤い旅団に感謝する。……私はキリスト教民主党から離脱する」
このシーンは映画の最後でも短いバージョンで繰り返されるが、もちろんフィクションだ。『夜よ、こんにちは』でもラストに殺されなかったモーロが早朝のローマを1人で歩くシーンがある。それに呼応する「もし生きていたら」という場面だが、映画を見ると殺されずに済む道はいくつもあったことがわかる。
ちなみに彼のナレーションの言葉は、この映画についてくわしく解説したサイトによれば、実際にモーロが監禁されていた時に書いた膨大なメモにあったものだという。つまりこの映画は、事実とフィクションを実に巧みに組み合わせている。同じサイトによれば、赤い旅団からモーロ夫人にかかってきた電話やローマ大学のモーロの助手にかかってきた電話の内容は盗聴・録音された通りという。
もう1本思い出す映画は、モーロ事件当時首相だったジュリオ・アンドレオッティのその後をパオロ・ソレンティーノ監督が描いた『イル・ディーヴォ 魔王と呼ばれた男』である。このアンドレオッティを演じているのは『夜のロケーション』でローマ法王を演じたトニ・セルヴィッロだが、セルヴィッロ役の2人がどちらも能面のようで、これまた本物のアンドレオッティの特徴をよくとらえている。
映画のラストに実際の人物が写真と共に出てくる。モーロの国葬では未亡人は遺体を渡さず、遺体なき国葬になった。アンドレオッティは何度も首相になり、コッシーガは後に大統領になったことも出てくる。もちろんモーロを見殺しにしたことで、彼らは政治的に成功したのだ。
そういえば、もう1本あった。マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督の『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』(2012)は1969年のフォンターナ広場爆破事件を扱っているが、当時外相だったモーロを演じてるのは今回もモーロを演じたファブリツィオ・ジフーニだった。イタリアの夜の闇への追及は今も続いている。
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