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2023年5月29日 (月)

『波紋』が描く世界

荻上直子監督の『波紋』を劇場で見た。この監督の映画は、ヒットした『かもめ食堂』(2006)と次の『めがね』(2007)を見て以降、全く見ていない。ユーモアの質がどうも自分とは合わないと思ったからだ。すべてをカリカチュアにしてしまう、といったらいいのか。

『波紋』を見たのは、予告編がおもしろそうだったから。少なくとも『かもめ食堂』の呑気なタッチとは全く違う感じで、筒井真理子の雰囲気がすごいし宗教団体まで出てくるので見たくなった。

結果としては、かつての『かもめ食堂』とはずいぶん違った。東北大震災の直後、夫(光石研)は妻(筒井真理子)と高校生の息子(磯村勇斗)を置いて突然いなくなる。それから10年くらいがたって、妻は介護していた夫の父親を看取り、スーパーのバイトをしながら暮らしている。息子は九州に住んでいる。

よく見ると家がだいぶ変わった。妻は夫が丹念に育てた庭の植物をすべて捨てて枯山水にしており、「緑命水」を売る怪しい宗教団体に入れ込んで、多くの水を買い込んでいる。そこへある時夫がふいに帰って来て癌だと言い、そのまま住みだす。

夫に頼まれて一緒に医者に会いに行くと、医者は未認可薬を使うしかないがそれは500万円程かかると言う。夫が「お父さんの遺産があるだろう」と言うのを聞いて、妻はそのために戻ってきたことを知った。そこへ今度は息子が帰ってくるというので喜んでいると、6歳年上の聴覚障害の女を連れて来た。

勤めるスーパーでは変な客にからまれ、宗教団体ではさらなる高い水の購入を勧められる。そのうえ更年期症状が出て、時々立っていられない。つまりは、周りのすべてが不愉快な中年女性の世界が描かれる。

見ていてこれはどこに持ってゆくのかと思った。宗教団体の描写は巧みだと思ったが、夫の家出の原因もよくわからないし戻ってくるのも不思議だし、なぜ息子が障害のある女を連れてくるのかもピンとこない。何度か夫婦が池の中で立っている白黒の映像も挿入されるが、これもあまり成功していない。

しかし最後に宗教団体から解き放たれて、妻がなぜか晴れた日の雨の中でフラメンコを踊り出した時、妙に気持ちよかった。こう持ってくるのかと思うと、ようやくわかった気がした。それにしてもこの監督は不思議な世界へ行ったと思った。

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