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2023年5月18日 (木)

『ふたりの画家、ひとつの家 毛利眞実の生涯』を読む

高見澤たか子著『ふたりの画家、ひとつの家 毛利眞実の生涯』を一挙に読んだ。「毛利眞実」と書いても知っている人は少ないだろう。長くフランスに暮らした著名な画家で2013年に亡くなった堂本尚郎さんの妻である。だから画家の堂本右美さんの母でもある。

堂本尚郎さんは、2005年に世田谷美術館で大きな個展をやったので見た人もいるかもしれない。国立新美術館の「モネ展」で後半には、その影響を受けた画家として彼の作品も並んでいた。

堂本尚郎さんと会ったことがあれば、だいたいそばにいる奥さんの眞実さんのことも記憶にあるのでは。私は2007年に国立新美術館で「異邦人たちのパリ ポンピドゥー・センター所蔵作品展」を担当した時に堂本さんと出会った。これはピカソやカンディンスキーを始めとしてパリで活躍した外国人画家や彫刻家に焦点を当てたもので、堂本さんの作品も出品されていた。

何度かお会いするうちに気に入られたのか、ご自宅でのパーティなどに招待されるようになった。そこには高階秀爾、芳賀徹、坂茂、谷口吉生といった著名な方々がたくさんいらしていた。その全体を仕切っていたのが奥様の眞実さんだった。フランス語に流暢で社交的でありながら、絶えず全体に気を配っている感じだった。

そこで聞いたのが、「眞実さんもまた個展を」という言葉だった。堂本尚郎さんと出会う以前からパリで絵の勉強をしていてかつてはそれなりに知られていたが、夫の活動の手伝いや子育てで長い間描く時間がなかったらしい。

堂本尚郎さんは2013年に亡くなられ、葬儀にも行った。いつか眞実さんの絵を見たいと思っていたら、昨年の1月に亡くなられたという話を娘の右美さんから10月に聞いた。そしてこの本が送られてきて、私はむさぼるように読んだ。

毛利元就に連なる毛利家に1926年に広島に生まれて女子美に進み、1950年に絵の勉強をするために24歳でパリに行く。まだ占領下でパスポートもビザもGHQから出た。フランスへの留学自体が戦後初めてで、「ラ・マルセイエーズ」号には後に小説家になる遠藤周作もいた。この本がおもしろいのはたくさんの写真が載っていることで、眞実の中学生時代にはなぜかネクタイ姿の写真がある。

この本は、1952年にいったん帰国し、翌年に堂本尚郎氏と出会って1956年に彼と合流するため再びパリに行くあたりまでに半分が割かれている。実は後半の方がおもしろいが、続きは後日。

 

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コメント

偶然でしたが、ちょうど南天子画廊から「毛利真己出版記念展」の案内が来ました。22日から開催されるようです。楽しみにしています。

投稿: M. MINOWA | 2023年5月19日 (金) 10時04分

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