ヤン ヨンヒ『カメラを止めて書きます』を読む
出たばかりのヤン ヨンヒ著『カメラを止めて書きます』を読んだ。彼女の作った作品は劇映画『かぞくのくに』(2012)を始めとして、ドキュメンタリーの『ディア・ピョンヤン』(2005)も『スープとイデオロギー』(2021)も見た。小説『朝鮮大学校物語』(2018)さえ読んでいる。どれもおもしろい。
ドキュメンタリーはもちろんのこと、劇映画も小説もすべてが在日コリアンである自分とその家族を描いたものだが、今回の『カメラを止めて書きます』はそれをエッセーにしたもの。ヤン ヨンヒさんについてはもはやすべて知っている気がしていたが、エッセーとなるとまた違う本音や真実が出ている。
『ディア・ピョンヤン』で一番記憶に残るのは、彼女の父親が誰でもいいから早く結婚しろと言った後に「アメリカ人と日本人だけは許さん」と言う場面。これは韓国、日本だけでなく、カナダ、イタリア、ドイツ、アメリカなどでも笑いが起こるらしい。移民1世と2世の問題はどこの国でもあるから。その父親の場面写真が載っているのでまた思い出す。
もう1つ覚えてているのは、彼女の母親が北朝鮮に渡った兄たちに大きな荷物を送るシーン。「親しかできへんでー」と言うが、これも場面写真が載っている。兄たちから来る手紙には「「栄光なる祖国と敬愛する金日成首領様の愛に包まれながら勉学に励んでいます」という抽象的な言葉ばかりが書かれていた」と書く。
(たぶん)映画の一場面ではない写真で、心に残るものが3枚ある。1つは那智勝浦の海岸で水着姿の兄3人に抱っこされた彼女のもの。遊園地などに行ったことのない家族だったが、下の2人の兄が北朝鮮行きが決まって、母が「海に行こう」と言ったという。ボケた写真だが、幸福感と寂しさが伝わってくる。
もう1つは亡くなる直前の父親に彼女が添い寝しているもの。実に気持ちよさそうに眠っている。「殺してくれ」という父親に「アボジが死んだら、ヨンヒがアボジ!って呼ぶ人がおらんようになるやん。そしたらヨンヒが寂しいやん」と言うと「そっか、わかった」と言って大きな声で泣き出した。その日から彼女は隣に添い寝して昼寝をするようにした。
もう1枚は母が20歳の時の写真。「娘ながらに「こりゃ惚れるわ」と思う」と書く通り、本当に美しい。父は「娘さんを僕にください。結婚を許してもらえなけっれば、僕は生駒山から飛び降りて死んでしまいます!」と言ったという。
この本は去年韓国で出版されたものだという。韓国の人々には在日コリアンの複雑な思いが伝わっているだろうか、「帰国事業」をどのようにとらえるのだろうか。いろいろことを考えながら、あっと言う間に読んでしまった。
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