田中克彦著『ことばは国家を超える』に考える
ハンガリーのメーサローシュ・マルタ監督は、かつては日本でマルタ・メサローシュと呼ばれていた。ハンガリーでは日本と同じく姓の後に名前が来るとわかって、割に最近改めたのではないか。そんなことを考えている時に読んだのが、田中克彦著『ことばは国家を超えるー日本語、ウラル・アルタイ語、ツラン主義』。
田中克彦氏は、最初に勤務した国際交流基金の機関誌で「日本人は漢字をやめた方がいい」などとずいぶん極端なことを話す言語学者だったのを記憶している。10年ほど前に『漢字が日本語をほろぼす』という新書を読んだ。中国の周辺国で漢字を続けているのは日本だけで、大きな無駄であると書いていた。
今回の本は、日本語が朝鮮語、モンゴル語、トルコ語、ハンガリーのマジャール語、フィンランドのスオミ語などと同じ言語構造を持つウラル・アルタイ語族であることを、言語学者としてのさまざまな体験を交えながらエッセー風に書いている。
ハンガリー語の構造がほかのヨーロッパ言語と全く異なっており、フィンランド語と似ていると発見されたのが、1799年。これはウラル語族に属する。英語などのヨーロッパ言語とインドの古典語サンスクリットの関係が発表されたのが1808年で少し後。1800年頃に比較言語学が生まれたと言えるだろう。
アルタイ語族はトルコ、モンゴル、ツングースに及ぶが、日本語がウラル・アルタイ語に属すると発表されたのは1857年。日本の学者では藤岡勝二が、ドイツ留学後の1908年に日本語のウラル・アルタイ説について講演した。20世紀にはハンガリーでトゥラン主義(日本語ではツラン主義)が起こり、日本でも広まった。
「日本が日清戦争、日露戦争という大国との戦いに勝利をおさめたことは、ハンガリーとフィンランドの知識人を大いに刺激した」「ユーラシアの大部分に先住したのはウラル・アルタイ語を話す諸民族で、その後ロシア語とシナ語がそこに混入して、この地域を言語的に分断したのである」
驚いたのは満州語という言葉があること。アルタイ語族でモンゴル語に近いらしい。「日本がせっかく作った満州帝国は、満州語を国語にしなかった。これが何よりも「帝国」のカイライ性を暴露している」。満州語は絶滅したと思っていたら、今日1千万人の話者がいて黒竜江省では満州語復活運動もあるという。
言語には孤立語、膠着語、屈折語があり、中国語は孤立語、日本語などのウラル・アルタイ語は膠着語、ヨーロッパ言語は屈折語らしい。著者によれば中国語は単語を並べただけで文法が少なく、劣る言語である。そういうことをモンゴルの国際学会で発表したら「外国語の悪口を言ってはいけません」と注意されたらしい。
「こうした、日本人と同じ表現方法を持つ人たち、ウズベク人、カザフ人、キルギス人、そして中国で過酷な抑圧を受けているウイグル人など中央アジアの大部分に人たちに共有されているのだと知ってこの人たちとつき合うことが、私たちにとって、何よりも欠かせない教養の一つではないだろうか」
現在、ロシアと中国は世界の秩序を乱す2つの大国だ。この二国がウラル・アルタイ語地域を分断したと考えると、妙に現代的な問題に見えてくる。
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コメント
>驚いたのは満州語という言葉があること。
清朝を作った満州族=女真族 は漢人ではないですよね.
姓も愛新覚羅とかまるで違うし,この字自体が漢字の当て字でしょう.
清朝の第1公用語は満州語でしたが,清朝後半になると,満州語が話せない満州人が増えてきたそうです.
投稿: yazaki | 2023年6月27日 (火) 00時43分