『浪曲絶唱ストーリー』に泣く
私は浪曲には詳しくない。たまたま映画でマキノ雅弘の『次郎長三国志』シリーズ(1952-54)で広沢寅造を見たり、成瀬巳喜男の『桃中軒雲衛門』(1936)を見たりしたくらい。そして、2019年に忽然と始まった「浪曲映画祭」に何度か参加して、浪曲映画や実際の語りを聞いてその奥深さを覗いた。
それでも玉川奈々福の語りや沢村豊子の三味線を聞いて、なかなかいいなあと思った。今回、若い女性が有名な浪曲師に弟子入りして修行する様子を8年間追いかけたドキュメンタリーと聞いて、ちょっと覗いてみたくなった。
川上アチカ監督のこの映画は、伝説の浪曲師、港家小柳に弟子入りして修行をする港家小そめを追いかける。実際は修行の場面よりも、80代の小柳の身辺の世話をしている場面が多い。小そめ自身40歳を過ぎており、以前はチンドン屋に弟子入りしていて全国を回った話も出てくるから、なかなかの変わり者。
小柳が公演中に同じ節を何度も繰り返してしまう場面が出てくる。「曲師」と呼ばれる三味線弾きはそれをこっそり指摘したりしながら、何とか最後まで持ってゆく。ところがある日、小柳は公演中に「今日はこれ以上無理です」と中止してしまう。
小柳は名古屋に住んでおり、東京で公演をする時は曲師の玉川祐子の横浜の家に泊まる。玉川祐子は何と90歳を超えているので、2人の会話はよくわからない。小そめはその家に通い、2人の世話をする。小柳が公演をやめてからは、小そめは名古屋の犬山にある家に通う。
自然に、小そめに指導をするのは玉川祐子になった。それからとうとう木馬亭でお披露目会をする。入口ではチンドン屋仲間が派手に騒いでいる。祐子はこの時も曲師を務めるが、何と97歳。このお披露目には玉川奈々福や玉川太福などもずらりと並ぶ豪華なもので、客席は立ち見まで出ている。
そこで深々と頭を下げる小そめの姿に涙が出てしまった。前の年に小柳が亡くなったことは、この席の小そめの語りで知る。それから小そめの口上は涙が出てとても見ていられないほど。監督も女性で、映画全体に頑張る女性への熱いまなざしが溢れている。
この映画を見たら、浅草木馬亭に行ってみたくなった。サイトを見ると、ちゃんと小そめも出ているし。誰か連れて行ってくれないかな。どうでもいいが、その2階が大衆演劇の木馬館というからわかりにくい。大学生の頃、大衆演劇は見たことがあったが。
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