「ハリー・ポッター」展に思う
教える大学から近いので、としまえん跡地の「ハリー・ポッター」展を見に行った。正式には「ワーナー ブラザース スタジオツアー東京‐メイキング・オブ・ハリー・ポッター」。私は長年、展覧会屋(ランカイ屋)だったし、今は一応、映画を教えているので。
美術展以外の展覧会が難しいのは、経験上よく知っている。建築展は実物は見せられないので、図面、デッサン、模型、写真(及び動画)になる。展示空間を工夫するのがせいぜいで、ある素晴らしい建物に入った瞬間の気分はなかなか味わえない。
文学展は直筆原稿、写真に書斎の再現くらい。作家のペンとかお気に入りのコートなども。あとは文章を布に刷って天井から垂らすとか。漫画展だと、ひたすら原画を並べるか、実際の漫画本を会場に置くか、はたまたアトリエの再現か。
ファッション展は服そのものをマネキンに着せて並べればいいから、見栄えがする。先日まで都現美でやっていたディオール展などは、空間造形にお金をかけていたからずいぶん見ごたえがあった。
さて映画の展覧会はどうするか。王道だとスターの写真に映画の一部動画、ポスター、使った衣装、描き込み入りのシナリオ、使ったセットなどを並べる。これもお金をかけないと、ただのガラクタ市のようになるので注意だ。パリやトリノの映画博物館だと、常設展会場はいつも同じものを置いているので、それなりにお金をかけている。
さて今回の「ハリー・ポッター」展はどうかと言えば、基本的にはセットを実物大で見せるタイプ。学校の大広間、ロンドン魔法省、キングス・クロス駅の列車、禁じられた森、ダイアゴン横丁など。そこに小道具や衣装も加わる。実際の映画のセットは写らないところは適当にごまかすが、この展示はどこから見ても映画の世界を感じられるように、本物のセットよりお金がかかっているのではないか。
それがなぜ私にはおもしろくないのか。一番は映画そのものに思い入れがないから。第一話を飛行機で見たくらいだから、そもそもよく覚えていない。これがシリーズをすべて見ていたら、全く違うだろう。
二番目の理由は、私は何十回もヨーロッパに行っていること。イギリスのオクスフォード大学の大広間をモデルにしたと書いてあっても、私はオクスフォードで丸一日過ごしている。バチカン宮殿など欧州の主要な教会はすべて中に入ったし、カルカッソンヌのような中世風の街も古いお城もいくつも行った。だからヨーロッパの古い建物をモデルにした世界自体が、しょせんプラスチックの見世物にしか見えない。
そのうえ、ディズニーランドと違って、乗物に乗るわけではない。あるいはチームラボのような抜群の視覚的効果もインターアクティブもない。ただふらふらと見て回るのみ。撮影などの体験コーナーもあるが、私には子供だまし。既に行った学生の多くは大満足のようなので、私の意見はかなり個人的なものに違いないが。
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