『アステロイド・シティ』の楽しみ方
9月1日公開のウェス・アンダーソン監督『アステロイド・シティ』を試写で見た。この監督は私にとっては『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)が頂点で、このあいだの『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(21)はおもしろいが、かなり不可解さに満ちていた。
そして新作『アステロイド・シティ』はもっとわからない。いや、設定はむしろ簡単だ。1955年にアメリカ南西部の砂漠の街、アステロイド・シティで科学賞の授賞式が行われている時に、宇宙人が到来して大騒ぎになる。いかにも楽しそう。
もちろんこの監督だからすべてはキッチュ。みんなが科学を夢見て何の疑いもない。その場所には紀元前に隕石が落ちたためにできた巨大なクレーターがあり、観光地になっている。人口はたったの87人で、小さな食堂、モーテル、公衆電話などが1つずつある。その色合いやペカペカな感じがおもちゃのよう。
14歳のウッドロウは、戦場カメラマンの父オーギー(ジェイソン・シュワルツマン)と3人の妹と共にジュニア宇宙科学賞の表彰式にやってきた。父は子供たちの母親が亡くなったことを伝えられずにいる。そこに義父スタンリー(トム・ハンクス)がやってくる。街には映画スターのミッジ(スカーレット・ヨハンソン)もいるが、なぜかみんな気まずい。
実はこれは舞台の新作劇の内容で、白黒のスタンダード画面で脚本家コンラッド(エドワード・ノートン)が説明している。オーギーを演じるジョン・ホールやミッジ役のメルセデス・フォードもそこにいるが、俳優たちは芝居の意味がわからず、演出家のシューベルト・グリーン(エイドリアン・ブロディ)に聞く。
芝居は2幕とエピローグがあり、この演劇を作る過程がTVで放映されている。つまり、白黒のTVとできあがったフルカラーでワイド画面の演劇が交互に現れる。
出てくる人物が何を考えているのか、さっぱりわからない。科学者役でティルダ・スウィントンが出てくるほか、ウィレム・デフォーやステーヴ・カレルなども出てくるし、時々おかしいのだけれど、苦笑いしながら見ている感じ。
アメリカの1950年代の西部劇の砂漠とB級SF映画が第二次世界大戦の記憶に混ざり、それがこの監督一流のスノッブでおかしな風刺劇に収まっている。これだけノスタルジーを誘うビジュアルに凝っていながら、あえて盛り上げずにゆるゆると続けてゆくタッチに、唖然とした。
20世紀アメリカの全盛期を21世紀から俯瞰的に見て、楽しみながら考える点では、先日見た『バービー』と同じ感覚かも。
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