「TOPコレクション 何が見える?」に考える
東京都写真美術館には、幻灯に代表される「映画前史」の視覚玩具や機材のコレクションがある。それはドイツの映像作家ヴェルナー・ネケス氏の旧蔵品やフランスのコレクター、ジャン=ピエール・ドゥズーズ氏の収集品を、都写美開館時に購入したものである。
ネケス氏の方は『フィルム・ビフォー・フィルム』(1985)がかつてイメージ・フォーラムで公開された。映画が生まれる前の数多くのおもちゃを解説したもので実にわかりやすいが、DVDはない。私はかつてレンタルビデオ店で借りたVHSをダビングしていたので、それをDVDに変換して授業で使っている。
もう1人のドゥズーズ氏は実は友人だ。長年パリの美術系大学で教えていたが、知り合ったのは1980年代後半にコレクションを売るために来日した時。誰かの紹介で私がお世話をすることになったが、私は何人かを紹介した。フィルムセンター(現・国立映画アーカイブ)の研究員や水害で閉鎖された川崎市市民ミュージアムの学芸員や早稲田大学のI先生などだが、どこも買う予算はなかった。
そのうち川崎の学芸員のHさん(亡くなられた)が、当時開館準備中だった東京都写真美術館の学芸員を紹介して購入に至ったと聞いている。億単位の金額だったらしい。そのコレクションは開館当初は地下に常設展示されていたが、最近は数年に一度展示されるだけ。
そんなわけで見に行ったが、やはり眼鏡を覗くと風景が立体で見えるおもちゃは楽しい。見ながら私はドゥズーズさんの優しい笑顔を思い出していた。展覧会の副題は「「覗き見る」まなざしの系譜」だったが、覗くという行為はどこか秘密めいている。映画の最初はエジソンの覗き穴式の「キネトスコープ」だったが、この方式はなぜ広がらなかったのだうか。
そういえば、エジソンは展示の後半に出てくるけれども、「キネトスコープ・パーラー」のことが言及されていないのはどうしてだろうか。わずか10分弱のかなり荒い映像をループで上映しているだけ。今では米・議会図書館のペーパープリントコレクションがDVD・BOXに入っているのに。キネトスコープの機械の模型は国内にあるし、せめてキネトスコープパーラーの有名な興行の写真は展示したらいいと思った。
最後に突然、奈良原一高、オノデラユキの写真、出光真子の映像、伊藤隆介のインスタレーションが出てくる。それぞれの作品は力があるが、それがどう「系譜」になるのか、私にはわからなかった。10月15日まで開催。
ドゥズーズさんは2016年9月に会ったのが最後だが、お元気だろうか。2010年頃に来日した時に、ネケス氏の旧蔵品をかなり買ったので日本の美術館は買わないだろうかという相談を受けたが、私は今の日本は無理だろうと答えた。
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