『私の大嫌いな弟へ』の強度
大学生の頃、はやっていた「現代哲学」用語にフランス語から来た「強度」intensitéという言葉があった。9月15日公開のアルノー・デプレシャン監督の『私の嫌いな弟へ ブラザー&シスター』を見て、久しぶりにこの言葉を思い出した。
デプレシャンと言えば私の同世代で、『そして僕は恋をする』(1996)を見た時はマチュー・アマルリックの飄々とした演技と共に「まさに現代のフランス映画だ」と思った記憶がある。その前の『魂を救え!』(92)も『エスター・カーン めざめの時』(2000)も大好きだった。
それから『キングス&クイーン』(04)あたりから、どうもついていけなくなった気がする。日本でもなかなか公開されなくなった。しかし『あの頃エッフェル塔の下で』(15)を見た時に、80年代をノスタルジックに描いていたこともあってかなり惹かれた。
今回、『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』を見て、ようやく自分がデプレシャンに追いついた気がした。最初から最後までどの場面を見てもそこに映画があり、濃縮された人生があった。冒頭の息子を失くして絶望したルイ(メルヴィル・プポー)とその妻の場面から5年後、彼の両親が交通事故にあう。
こんなリアルで痛ましい事故は、これまで映画にあっただろうか。それをきっかけに南フランスの山中に暮らしていたルイは、両親の見舞いに北フランスの故郷の町に帰ってくる。彼は詩人で何冊か本があり、姉のアリス(マリオン・コティヤール)は故郷で女優として暮らしている。アリスは昔からルイが嫌いで、彼の本には毎回自分の悪口が書かれていると言う。
アリスはインタビューで弟の話が出てきた途端に鼻血を出して打ち切り、病院の廊下でルイの顔を見るだけで気絶してしまう。死が近づいた父。ルイとアリスの間に入る弟のフィデル。ルイのことだけを真剣に考える妻のフォニア、ルイの親友で彼を北フランスに連れてくるズウィ、ルイの旧友でアリスの夫のボルクマン、彼らの長男、アリスに憧れるルーマニアの娘ルチア。
出てくるすべての人間にそれこそ触れれば血が出てくるくらい、濃い人生が感じられる。彼らの交差する姿、その立ち振る舞いを見ているだけで、涙が出そうになる。そして最後のルイとアリスの結末に涙する。彼らがスーパーで鉢合わせしてぶつかるシーンは、映画史上最大の「偶然」かもしれない。
最後の最後まで何が起こるかわからなくて、見終わっても興奮が止まらない。みんが好きかどうかわからないが、映画好きにはたまらない作品だと思う。
デプレシャンとは30年ほど前、プランタン銀座の近くにあったフランス料理店で映画評論家の故ジャン・ドゥーシェ氏と夕食を共にしたことがある。ドゥーシェ氏とパリで昼食をした時にも、2、3度食後に現れた。彼とはドゥーシェ氏のいわば兄弟弟子だったのかもしれない。
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