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2023年9月16日 (土)

『蠅の王』の到達点

先日、パオロ・タヴィアーニの『遺灰は語る』を今年の外国映画ナンバーワンと書いたが、またまたイタリア映画の秀作を見た。11月10日公開のジャンニ・アメリオ監督の『蠅の王』で、この監督のなかでも相当の力作だと思った。

この映画を見ながら、いろいろなことを考えた。昔、イタリア映画祭をやっていた私にとって、主役のアルド・ブライバンディを演じるルイジ・ロ・カーショは『ペッピーノの百歩』以来、何度も出演作を上映してきた。シチリア出身の彼が、気品溢れる北部のインテリを演じていることに深い感慨を覚えた。日本では実に明るく賑やかな青年だったが。

そして彼と仲良くなるジャーナリスト、エンニオを演じるのがエリオ・ジェルマーノで、彼が『ナポレオンの愛人』(2006)で来日した時はまだ少年のようだった。その彼が、共産党機関紙の『ウニタ』の編集長に従わない自由な中年記者を演じるなんて。この2人が少しずつ近づく場面に涙する。

もう1つはアルドの母親の姿である。エミリア州のピアチェンツァでどこまでも息子を信じて生きており、ローマの裁判に立ち会う。息子が彼女を「スザンナ」と呼んだ時にハッとした。ピエロ・パオロ・パゾリーニの母親と同じ名前ではないか。そのうえ、パゾリーニの『奇跡の丘』や『テオレマ』に出ていたスザンナ・パゾリーニに、どこか風貌も似ている。

実際のブライバンティが教唆罪に問われた時、パゾリーニはマルコ・ベロッキオ監督や作家のアルベルト・モラヴィアなどと共に反対運動を起こしたとプレス資料に書かれているが、この映画で名前を同じにして似た女優に演じさせているのは、意識的な選択ではないか。この母親の存在が映画の最後まで大きな意味を持つ。

そしてもう1つ思ったのは、ブライバンティの知性に憧れる若者エットレの彼への思いが、父と子の関係のように見えることだ。この監督の映画には、自分の父親が長い間不在だった実体験が何らかの形で現れる。この映画ではエットレの父親は老いて影が薄く、裁判の場面にはもう出てこない。その代わりにアルドが大いなる父の役割を果たす。

裁判では2人には性的関係があったことをアルド自身が語るが、そういう場面は見せない。あくまでエットレがブライバンティから受ける知的で詩的な刺激とそれを喜ぶアルドの姿が語られる。エットレを演じるレオナルド・マルテーゼがすばらしい。裁判の場面の供述やラストの再会に涙してしまう。

あらすじも書かずに個人的な思いばかり書いたので、映画の全体像については後日書く。

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