『ハリウッド映画の終焉』とは
宇野維正著の新書『ハリウッド映画の崩壊』を読んだ。読んだというより、流し読みに近い。というのはハリウッドの内情が英語のサイトからの引用を中心にたっぷり書かれていて、詳しくない私にはなかなかついて行けなかったから。
なぜ買ったかと言えば、私が2月に『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』を出した集英社新書から出ていて、編集者も同じだったから。宇野維正という著者は、雑誌やネットでよく見かけたがあまりきちんと読んだことはなかった。
この本には『プロミシング・ヤング・ウーマン』から『TAR/ター』まで16本を中心に分析している。私はそのうち10本を見ていたので付いていけるかと思ったが、そんなに甘くはなかった。それぞれの細かい製作事情が監督のインタビューを中心に書かれている。
さて「ハリウッド映画の終焉」がわかったかというと、私にはよくはわからなかった。その要因はいくつかある。一つはコロナ禍でハリウッドが大型作品の公開を先延ばしにしたことがある。一方で配信が一般に広く普及し、個性的な監督は自分のやりたいことを実現するために、配信を選ぶようになった。あるいは膨大な数のシリーズものが作られ、過去の作品も見られるようになって、観客は映画館から遠ざかった。
さらに2017年のワインスタイン問題以降、#MeToo運動で多くのスターや監督が非難されて活動が難しくなり、また関係する作品の上映ができなくなった。いわゆるキャンセル・カルチャーの蔓延だ。ここまでは一般に言われているが、面白いのは監督たちが「最後の映画」を撮っているという指摘。たしかに、最近の振り返り映画の流行は気になってはいた。
「直近10年に作られた映画で、その後の作品に最も影響を与えた作品を一つだけ挙げるとしたら、自分は迷いなくアルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』(2018年)の名前を挙げる」。自分の子供時代をノスタルジックに描いたから。これはケネス・ブラナーの『ベルファスト』(2021年)にもパオロ・ソレンティーノの『The Hand of God』にも共通する。
クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)もポール・トーマス・アンダーソン『リコルス・ピザ』(2021年)も「自伝的映画」。その決定版がスティーヴン・スピルバーグの『ファイブルマンズ』(2022年)。さらにデヴィッド・フィンチャーの『Mank/マンク』も亡き父への思いで作られた点で共通するらしい。
この筆者はいわゆる「アート系映画」より、ハリウッド映画を評価するようだ。「アートハウス系のヨーロッパ映画や、インディーズ系のアメリカ映画や、一部の作家性の強い日本映画のストーリーがそれらよりも先鋭的に思えるとしたら、その大部分はストーリーの定型を進化させているのではなく、語りしろを残す、つまりストーリーを未完成の状態のままに放り出すとか、あるいは思わせぶりな演出で煙に巻くなどして、定型から逃れることを意図しているからに過ぎない」
ここが私と考えが違うところだと思った。
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