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2023年10月 6日 (金)

東近美の常設を楽しむ

古今東西の映画を見て論じるのが仕事になってしまった私にとって、美術展を見るのは一番の気分転換になる。毎秒何コマも移り変わる映画と違って、たった一枚の絵を見る行為は頭の違う部分を刺激する。昔、展覧会の企画を仕事にしていたランカイ屋なので、懐かしさもある。

私にとって一番近いのは、自宅の玄関から入口まで15分で行ける竹橋の東京国立近代美術館。ここの所蔵品を見せる常設展は3フロアもあって、それだけで普通の美術館の2、3倍の広さ。明治から現代までの美術を、日本を中心に外国の作品も交えて見せてくれる。

最近行ったのは「女性と抽象」という常設内の企画展があったから。数年前から女性の画家や彫刻家に焦点を当てた展覧会は増えたが、「抽象」というテーマが気になった。最初に出てくるのは1947年に発足したという「女性画家協会」で、三岸節子や桂ゆきなど私でも知っている作家のハイレベルの抽象画が並んでいた。

ちょっと驚いたのは次の「増殖する円」というセクション。草間彌生の初期のびっしりと描かれたネットの絵も、具体の田中敦子の電球を並べた絵画も、青木野枝の細い鉄のオブジェも、辰野登恵子の抽象画も、みんな「円」をテーマにしていた。女性=円という考えは少し安易だけれど、私が気になるこの4人の作家が方向は全く異なりながらも、円に収斂している。

私は30年以上前に、「具体」の展覧会のイタリアとドイツの巡回展に関わったことがあった。当時は50年代から60年代に活躍した作家のみなさんがお元気で、田中敦子さんが若い頃に着た発熱電球をつないだ服の復元作品や、さまざまなバリエーションで電球を並べた絵画を展示するのを見ていた。小柄な田中さんを見ながら、それからずっと電球の絵ばかり描き続けてきた人生を考えた。

具体と言えば、アーティゾン美術館の「創造の現場 映画と写真による芸術家の記録」を思い出した。これは既に書いた山口晃がこの美術館の作品と「ジャムセッション」をした展覧会と同時開催だったが、印象は薄かったので書くのを忘れた。

梅原龍三郎などが偉そうに絵を描くドキュメンタリー映像がどれも平板でつまらなかったし、その横に作品があるとかえって作品の良さが見えない気がした。むしろおもしろかったのは後半の安斎重男によるドキュメント写真群。そこには1993年のベネチア・ビエンナーレの企画展で具体美術の回顧展が行われ、みなさんが参加された写真があった。

私はその写真を思わずスマホで撮影した。白髪一雄、元永定正、村上三郎、嶋本昭三、山崎つる子、田中敦子、金山明(田中さんの夫)、吉田稔郎、吉原通雄(具体を始めた吉原次郎の息子さん)など、1990年頃に欧州に2度もご一緒した方々が全員元気でいた。ベネチアから30年たって、今は全員亡くなられている。東近美で田中敦子さんの絵を見ながら、そんなことを思い出した。

 

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