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2023年10月 3日 (火)

しゃぶしゃぶと民藝運動

昔、新聞社で展覧会や映画祭をやっていた頃、外国人の接待にしゃぶしゃぶ屋を使うことが多かった。鮨屋はもちろん、日本料理も生の魚が出てくるから、食べられない人が出てくる。その点しゃぶしゃぶは牛肉だから、ベジタリアンでなければ誰でも食べられる。

相手が美術館長などハイクラスだと「ざくろ」のような高級店、学芸員と展示作業員などの大人数の場合は「木曾路」のようなチェーン店にしたが、おおむね好評だった。評判がよかったのには牛肉のほかに、和風の内装があった。

チェーン店でさえも、掘りごたつで民芸風の田舎の家のような作りで、店に入るだけで「わあー」と盛り上がる。華やかな銀座通りのビルのエレベーターを降りたら突然そういう空間が現れるのだから当然だろう。ましてや高級店には囲炉裏があり、壁に棟方志功風の版画がかかっていたからなおさらだ。

そのことについて深くは考えなかったが、先日の「朝日」のbeを読んでいたら、もともと戦後すぐに日本で最初にしゃぶしゃぶを始めた京都の店の主が、民藝運動と深くかかわっていたことがわかった。民藝仲間が中国に出兵しており、中国で食べた羊の水炊きをヒントに牛の水炊きを始めた。だから店には河井寛次郎の陶器や棟方志功の版画を並べていた。

そしてそれに「しゃぶしゃぶ」という名前を付けたのは大阪の「スエヒロ」で、ここの当主も民藝運動に深くかかわっており、木造3階建ての外観から調度品まで民藝が推奨したものを並べた。「スエヒロ」といえば昔、築地にもあったが、あの店も民芸調で外国人の接待に使ったことがあった。

もともと民藝運動では、自分たちが作る工芸品を売る店も運営した。これは東京国立近代美術館の数年前の「民藝」展で知ったが、料理屋はその延長線上かもしれない。

ふと思ったのが、最近になって潰れた京橋の「美々卯」。立派な3階建ての和風で、ここも外国人とよく行った。しゃぶしゃぶでなくうどんすきの店だが、本店は大阪のはず。ひょっとするとこちらも民藝運動と関係があるのか。前に関西学院大学で集中講義をやった時にこの店主の自宅前を通ったが、ちょっと不思議な建築だった。

民藝運動は戦後日本の料理店に影響を及ぼしたのではないか。そんなことを考えた。ちなみに「しゃぶしゃぶ」「民藝」で検索したら、「朝日」の記事とほぼ同じ内容が出てきた。そこには2015年の京都新聞の記事を参考にしたと書いてあった。大丈夫かな、「朝日」。

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