東京国際映画祭を降りる:その(5)
とっくに東京国際映画祭は終わったが、見た作品について書いておく。「ワールド・フォーカス」のフィリピンのポール・ソリアーノ監督『漁師』が抜群だった。ある島を舞台に周囲と対立する漁師ペドロを描いたものだが、白黒で描く神話的な世界に魅了された。
ペドロは、息子が水死したのはほかの漁師がダイナマイトを使って漁をするからと信じて対立している。ある時、海で不思議な青年ハイを見つけて家に連れてくる。彼は言葉を話せないが、いつもニコニコして猟に出ると大量の魚を取って来た。妻デルマはハイが用意した薬草で喘息が治り、娘のシモーンは彼になつく。
ところがシモーンのお腹が急に大きくなる。ペドロはハイを疑っていじめるが、娘は何もしていないと言う。そして生まれたのは実は、というファンタジーのような話。漁村にはマイナという魔女のような存在がいてすべてを支配するが、ポールは結局それをぶち壊す。138分、全く退屈しない。
一般上映で監督のQ&Aがあったので、上映後私は手を挙げて「この傑作がコンペでないのが残念」と述べたら監督は「中国の映画祭に出たからでしょう」。チラシの「ワールド・プレミア」と書いてあったが、それは誤りだった。監督の話では、謎の青年ハイは中国の象徴と聞いてびっくり。フィリピンが中国という新しいパワーとどう付き合っていくかを考えたらしい。
「ワールド・フォーカス」ではもう1本見た。『ロング・デイズ・ジャーニー』などに出ている台湾の若手俳優リー・ホンチーの監督兼主演作品で、ヴェネチアの批評家週間に出て新人監督賞を受賞している。3年間いた刑務所を出た若者が故郷に帰るが、なかなか仕事は見つからない。
海辺の町で観光客相手にビーチパラソルを売るが、ギャンブル中毒の母の借金を返すために、昔の仲間と手を組むという流れ。社会の片隅でもがく若者を描いた何ともやるせない話で、出てくる昔の女友達や若い議員なども実にいい感じ。何となくホウ・シャオシェンを思わせるような懐かしさもある。
結局、コンペで6本、ワールド・フォーカスで3本見た。この10年近くはコンペ15本をすべて見ていたが、今回は総評を書く場所がないので、あまり無理をせず、一日に2本までに決めて見た。それにしても疲れた。
東京国際映画祭は全体としての作品のセレクションは2、3年前からずいぶんよくなったが、映画祭としての「一体感」は相変わらずない。やはり東宝シネマズ日比谷全体を使うか、それは東宝が絶対にOKしないらしいので、朝日ホールを含むマリオンの映画館とヒューリックホールやヒューマントラストシネマを中心にした方がいいのでは。
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