『花腐し』の情感
荒井晴彦監督の『花腐し』(はなくたし)を劇場で見た。試写で見た人から「この監督の最高傑作」と聞いていたので、期待していた。結果は「いいけど、傑作かな」と思った。確かにこれまでの4本に比べても、今回はやりたいことをやっている気がする。
主人公はピンク映画の監督・栩谷(綾野剛)と脚本家志望だった伊関(柄本佑)。仕事のない栩谷は大家から家賃の代わりにある仕事を頼まれる。それは取り壊し予定のアパートから出て行かない住人を追い出すことで、行ってみるとヘンな男、伊関がいた。
入口で押し問答をしているうちに妙に波長があって、2人は部屋で飲みだす。そしてお互いが自分が出会った女について語り出す。かつて荒井監督が何本も脚本を書いたピンクやポルノ映画の世界で、30代の男2人が「いい女だった」と互いに語るなんてまさに荒井ワールドだ。
そのうえ、冒頭には海岸で男女の心中の死体が上っている。栩谷は女の田舎の葬儀を訪ねるが、相手にされない。数年間一緒に暮らしたとは言えない。自分の恋人が別の男と心中して、その実家を訪ねるという凝った前段である。
そして2012年という「現在」は白黒で、24歳の伊関が20歳の女に会った2000年から数年や栩谷が会った2006年からは、カラーという趣向。観客は過去の映像からすぐに2人が同じ女、祥子(さとうほなみ)を違う時期に愛していたことがわかる。しかし2人がそれを悟るのは映画の終盤だ。
最初は何だか作り過ぎだなと思った。過去のシーンの多くで情感たっぷりに雨が降っているし。心中した男の葬式でピンク映画業界の仲間が集まってケンカし始めるところなど、ワンパターンじゃないかとさえ思った。しかし、それぞれの男と祥子とのセックスの場面のリアルさに驚いた。伊関にとっては初めての女性でなかなかうまくいかないシーンとか笑ってしまう。
祥子は伊関とつき合っていた時は子供を欲しくないと堕胎し、栩谷とは欲しいと思う。そして伊関が別れる前の最後の交わりの迫力にびっくり。2人の男が自宅を出て飲む韓国バーの雰囲気もいい。そして伊関の家に帰ると奇想天外な展開が待っていて飽きない。ラストのクレジットのカラオケシーンは素直に感動した。
終わってみると実はなかなかおもしろかったけれど、どこか不満なのはたぶん荒井ワールドの古さがどこか気になるのだろう。原作は松浦寿輝の芥川賞受賞の同名小説だが、読んでいない。何度か会った松浦さんの印象とこの映画はずいぶん違う。原作を読もうと思った。
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