都写美からスコリモフスキへ
最近、東京都写真美術館があまりおもしろくない。個人的に最近の若手の写真家や映像中心の作家はおおむねピンと来ない。それに比べたら江戸時代後期とか明治初期の写真の歴史的展示が百倍おもしろい。あるいは既に亡くなった写真家の回顧展も好きだ。
1月21日まで開催中の「見る前に跳べ 日本の新進作家vol.20」は現代写真家ながら、4人ともなかなかおもしろかった。一番よかったのは最後のうつゆみこで、人間と動物(のフェイク?)を組み合わせた摩訶不思議な写真を作る。例えば大きな赤いインコの首が人間の胴体につながっている。そしてその手は黒い鶏を持っている。周囲には野生の動物が散らばっている。
まるでアンリ・ルソーの現代写真版といった趣で、人形なども加わって相当に危ないお祭り感が炸裂している。そのほかの3人も夜の繁華街に生きる人々を撮った星玄人などなかなか見ていて飽きない。選んだ学芸員が私の趣味に近いのかもしれない。
同時期に一つ下の2階で開催中の「即興 ホンマタカシ」はピンホールカメラで撮ったぼんやりした倒立像の建物や富士山などが並んでいる。建築物の一室をピンホールカメラにして撮ったもののようだが、正直なのところ私にはあまりよくわからない。
写真前史に挑む姿勢なのかもしれないが、かつて郊外のマンション群をクールに撮っていたこの写真家が、「即興」で富士山や広島平和記念資料館をさかさまの青っぽい像に収めているとは、正直面食らってしまった。
その後、隣の恵比寿ガーデンシネマに移動して「ポーランド映画祭」でイェジー・スコリモフスキの『バリエラ』(1966)復元版。これは1985年留学中に東欧映画史の課題のためにパリ郊外で見て以来で、その白黒の美しい画面構成は2つの写真展を吹き飛ばした。内容は、ある学生が友人たちと頭から落ちる奇妙なゲームに勝って、スーツケースとサーベルを持って旅に出るもの。
父親や年上の女と出会うが、大勢の学生たちやパーティの席で戦時中の歌を歌う大人たちに妨げられて、なかなか学生は前に進めない。ふとやってきた路面電車の女運転手に出会って仲良くなるが、今度は学生が姿を消す。周囲との軋轢を何とか振り切って旅立とうとする若者の姿がどこか抒情的だ。
その後に85歳のスコリモフスキが現れた。司会の質問に丁寧に答える。もともと有名なドキュメンタリー監督の脚本「空白地帯」を自分が書いたが、その監督は予算の半分を使って投げだした。プロデューサーに頼まれて残された予算で作った。毎日場面を即興で考えたが、2回もプロデューサーにやめたいと言った。
最近の映画の作風からもっと豪放磊落な感じをイメージしていたが、年のせいかずいぶん静かでまるで学者のようだった。
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