ビクトル・エリセの復活
最近、試写はほとんど行っていないが、2月9日公開のビクトル・エリセ監督『瞳をとじて』は「見たい」と思った。このスペインの天才監督は『ミツバチのささやき』(1973)を84年のパリで見て驚嘆した。翌年日本でも公開されて(シネヴィヴァン六本木!)、ずいぶん話題になった。
それから『エル・スール』が1983年、『マルメロの陽光』が1992年。それからオムニバス用の短編などは作っていたが、長編は実に31年ぶり。最初の『ミツバチのささやき』からは何と50年がたっている。エリセはもう83歳だ。
正直なところ、あまり期待はしていなかった。カンヌもコンペ外の出品だし、多くの映画監督の最盛期は10年くらいだから。ところがこれがずいぶんよかった。『ミツバチのささやき』のような衝撃はないが、骨太なドラマ構成といい、現代的なテーマといい、サスペンス仕立てといい、カンヌのコンペで賞を取ってもおかしくない出来ばえだった。
冒頭、1947年秋のパリ郊外の「悲しい王」という館で、老いた男がやってきた男に自分が中国の女に産ませた娘を探してくれと依頼している。頼まれた男は上海に行くという。それから現代になり、ミゲルは「未解決事件」というテレビ番組に出ることになった。彼は元映画監督で2本目の撮影中に主演のフアンが失踪した。
番組はフアンのその後をたどるもので、監督を辞めて小説家になり今は海辺で暮らすミゲルは、途中まで撮った20分の映像(これが冒頭の映像だった)を提供して番組で話すことでいくばくかのお金をもらう。フアンの娘は番組に出なかったが、ミゲルは連絡先をもらって会いに行く。彼女はプラド美術館のガイドをしていた。
ミゲルはマドリッドの古本屋で自分がかつての恋人のローラに贈った献辞付きの本を偶然に見つけて買う。そして何とか連絡先を探して会う。ローラもフアンとの物語があった。彼女がピアノを弾くあたりからからどんどん盛り上がり、興奮してくる。そして海辺に帰り、仲間とギターで西部劇のメロディ(どの映画だったか?)を弾く。
そしてフアンに似た男が海辺の介護施設で生きているという連絡が来て、ミゲルは会いに行く。フアンは認知症になっていたが、ミゲルは何とかその記憶を呼び戻そうとする。このあたりのいくつもの仕掛けが実に巧みで、見ていてドキドキした。
細部にリュミエール兄弟やカール・ドライヤーなどへの映画史的オマージュもあり、広島のあるホテルのマッチも出てくる。何より、ミゲルとフアンを演じた役者たちの佇まいがよく、堪能した。それから『ミツバチのささやき』のアナ・トレントが極めて重要な役で出てくる。彼女が「私はアナ」と言った瞬間は戦慄が走った。
もう1度劇場で見たい。来年の外国映画ベストワンが決まった。この監督は3度会っている。最初にマドリッドで会った時の印象が一番強い。
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