『ポトフ 美食家と料理人』の謎
トラン・アン・ユン監督の『ポトフ』を劇場で見た。この監督は最初の『青いパパイヤの香り』(1993)を見て、あまり好きになれなかった。日本で撮った『ノルウェイの森』(2010)も私の好みの題材なのに、どこか乗れなかった。
今回はカンヌで最優秀監督賞を取っているし、絶賛の映画評も見たので久しぶりにこの監督の映画を見ようかという気になった。自分も料理を作るのが好きなので、その過程を見せる映画に関心もあった。
冒頭、流麗なカメラで厨房で料理を作るウージェニー(ジュリエット・ビノーシュ)とドダン(ブノワ・マジメル)が写る。メニューを考えるのがドダンで、実際に手を動かすのがウージェニー。そして別室でドダンは友人たちとその料理を食べている。
パイ詰めとか、舌平目のクリーム煮とか牛のローストとか。カメラは厨房と食事会をドダンと共に行き来する。実際のところ、ドダンは料理を仕切りながら食事会で仲間と一緒に食べるのはちょっと無理があるだろうと思い始める。白ワインはピュリニー・モンラシェ。
見ながらいくつもの謎が浮かんだ。あの屋敷は何なのか。ドダンはウージェニーを雇っているが、時に夜には彼女の部屋に行って関係を持つ。ドダンはウージェニーに求婚するが、ウージェニーはあまり乗り気ではない。ドダンは何をして稼いでいるのか。使用人に手をつける金持ちか。
ユーラシア皇太子の招待で3部構成で半日かかる食事会に呼ばれ、友人たちと出かける。「ユーラシア皇太子」はフランス語で「アジア王国の皇太子」のような言い方だったが、成金の贅沢王のように描かれる。いったい、いつの時代の話なのか映画では出てこない。
ドダンは皇太子へのお返しの食事に「ポトフ」を提案する。赤ワインはシャトー・ヌフ・ド・パプと敢えて南仏産。しかし邦題にもなったポトフを作るシーンも食べるシーンもない。原題は「ドダン・ブファンの情熱」だからいいのだが。20世紀初頭に出た同名小説が原作らしい。
そして庭での20人ほどの昼食会で、ドダンはウージェニーとの結婚を発表する。何だかなあ。そしてウージェニーはだんだん弱ってゆく。しかし、ある時蘇る。ここは『雨月物語』の最後と全く一緒で、カメラがぐるりと回ると女が生きて食事を用意している。
ワインはほかにシャンボール・ミュジニーがあったが、いずれにしてもボルドーはゼロだった。それにしてもベトナム生まれのトラン・アン・ユンは「ユーラシア皇太子」のようなアジアを馬鹿にした人物を出したのだろうか。そもそもウージェニーがあまり魅力的には見えない。私にはすべてが謎の映画だった。
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コメント
サンテステフがボルドーではユーラシア皇帝のメニューで出てました。
投稿: | 2024年1月14日 (日) 20時42分