『哀れなるものたち』はおもしろいか
ギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督の『哀れなものたち』を劇場で見た。去年のベネチア国際映画祭で金獅子賞を取ったが、そこで見た「朝日」の石飛徳樹記者が「数年に1度あるかないかの傑作」と書いていたのを覚えている。
さらにアカデミー賞でも作品賞を含む11部門にノミネートで最有力という。ランティモスという監督は奇抜でエログロの映画を作るが、語りがヘタなのでベネチアはともかくアカデミー賞は無理だろうと思っていた。そこで早く見たいと思った。
結果は、かなりおもしろかったが「数年に1度あるかないかの傑作」とは思わなかった。何より設定がうまい。身投げした主人公のベラ(エマ・ストーン)は外科医ゴッドウィン(ウィレム・デフォー)によって命が救われる。彼は頭をやられたベラのお腹にいた胎児の脳をベラに移植する。
時代は明示されていないが、服装や建物からたぶん19世紀後半か。ベラは大人の体と幼児の頭脳を持ち動きもちぐはぐだが、それをゴッドウィン(ベラは「ゴッド」と呼ぶ)は教え子のマックスと実験のように記録を取りながら育てる。そこは白黒で広角レンズを駆使した妙な画面。そしてゴッド自身も父親の実験で肉体はつぎはぎのフランケンシュタイン状態。
ゴッドはマックスと結婚させようとするが、ベラはプレイボーイのダンカンに連れられて旅へ。最初に着いたリスボンがすばらしい。歪んだ不思議な街で空には気球がいくつも飛んでいてどこか未来風。ベラはそこでダンカンに性の快楽を教えられ、美食やダンスなどの楽しさを覚える。
自由奔放になったベラを監禁するためにダンカンは船の旅に出るが、停泊中の船からアレキサンドリアを見て貧困層に驚愕する。ベラはダンカンの有り金をすべて寄付して、2人が無一文でたどり着くのはパリ。ベラはそこで娼婦として生きる道を選び、庶民の生活を見て娼婦仲間に共産主義を学ぶ。
ここまではあれよあれよとおもしろかったが、後半は少し失速か。ベラは死ぬ間際のゴッドと再会しマックスと結婚するが、そこに現れた彼女を自殺に追い込んだ元夫に付いてゆく。それからの復讐もいま一つ。
何より、エマ・ストーンの変貌ぶりと、老いてゆくフランケンシュタイン風が実にピッタリのウィレム・デフォーを見ているだけで楽しい。あとはこの監督特有のくどいエログロとカリカチュアだが、今回は視覚的にずいぶん楽しませてくれた。
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コメント
確かに視覚的には相当楽しませてくれました
一方で...
投稿: onscreen | 2024年2月11日 (日) 13時01分