『落下の解剖学』を楽しむ
フランスのジュスティーヌ・トリエ監督『落下の解剖学』を劇場で見た。最近は原稿書きで忙しくブログ更新も昨年9月末から2日に1回にしたので、新作映画を見る回数も減らしている。ただこれはぜひ見たいと思った。
カンヌのパルムドールをフランスの監督が取ることは珍しい。ましてや40代の女性監督となると、これは見たいと思った。そのうえ、主演が『ありがとう、トニ・エルドマン』のザンドラ・ヒューラー。
見たのは大正解だった。2時間32分、ひと時も画面から目が離せなかった。設定はある意味でミステリー映画としては平凡。雪の中に立つ山小屋に住む作家夫婦と視覚障害の息子。息子は突然庭で父親の死体を発見する。3階から飛び降りたようだ。
警察の捜査は自殺か他殺かに分かれ、裁判となってザンドラ・ヒューラー演じる妻サンドラは被告として裁判に立つ。旧知の弁護士と共に無罪を主張するが、夫が録音していた2人の喧嘩の音声が出てくるなど、裁判はむしろサンドラに不利に進む。
私は増村保造の傑作『妻は告白する』(1961)を思い出したが、あの映画のように裁判の進行に合わせて妻の回想で物語が進むことはない。あくまで物証と証言がすべてで、検察側が繰り出す証人はサンドラに不利なものばかり。
『妻は告白する』ともっと違う点は、2人はロンドンで出会って結婚をしたフランス人とドイツ人で2人の会話の大半は英語。サンドラは裁判でも言葉に詰まると英語で話す。最初は2人の仕事もよくわからないが、何人かの証言から、妻は作家としてキャリアを重ねているが、夫は本が出せずにいやいや教師の仕事をしていたことがわかる。
専業主婦の『妻は告白する』とは違って、2人は国際結婚で妻は成功して夫は嫉妬していた。夫の希望で実家のグルノーブルに引っ越すが、そこで息子が事故で視覚障害になる。その後ろめたさ。こうなってくると俄然フェミニズムを背景にした現代社会となってくる。
しかしこの映画はそうしたフェミニズム方向にに流れることはなく、あくまで細部を重ねてサスペンスとしての高みを目指す。息子の証言による犬の役割などいやはや最後までハラハラさせられて、判決が出た時は主人公と共に座り込んでしまう気分になった。裁判が終わっても、もう1回何かありそうで落ち着かなかった。いやはやお見事。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『東京オリンピック』から『オリンピア』へ(2026.10.15)
- 『襲名』に考える(2026.10.13)
- 『ディスクロージャー・デイ』のおもしろさと不可解さ(2026.10.07)
- 『ナギダイアリー』の新境地(2026.10.01)
- 『ビルマの竪琴』から『花と兵隊』へ(2026.09.27)


コメント