『Here』のいい感じ
ベルギーのバス・ドゥヴォス監督の『Here』を映画館で見た。「朝日」で月永理絵さんが、「日経」で古賀重樹記者が絶賛し、劇場のHPではエリック・ロメール、アピチャッポン・ウィーラセタクン、ケリー・ライカートなどと比較していたから。
さらにルーマニア出身の建設労働者と中国人の生物学者がベルギーのブリュッセルで出会う話と聞いて、学生企画で移民の映画祭をやったばかりの私は見ておくべきかとも思った。
これが、私にはあまりピンと来なかった。すべての「いい感じ」はそこにある。まず、ビル建設工事現場の妙に寂しい光景が出てくる。工事途中の空間を風が通り、遠くに木々が見える。たぶん7月頃で工事は4週間休みになるという。出だしはすべてロングショットで誰が主人公かもわからない。
明日、アフリカに立つという同僚とフランス語で話した後、別の仲間と集まる。彼らとは別の言葉で話しているが、その内容からルーマニア出身の人々だとわかる。シュテファンはアパートに帰り、冷蔵庫の中を整理するためにスープを作る。そしてスープを持って同郷の友人や姉の家に行く。みんなスープを飲んで気持ちがほぐれる。
帰りに立ち寄った中華レストランで、オーナーの親戚の若い中国人女性シュシュに会う。彼女は大学で教えながら苔の研究をしていた。シュテファンは帰国の前日に友人宅から帰る途中に森を散歩して、苔を採集中の彼女に再会し、話をする。
それだけの話だが、ルーマニア人や中国人の移民たちが異郷で何とか生きていきながら、友情や家族を大事にしている姿がいとおしいほど伝わってくる。しかし見ている私はあまり盛り上がらなかった。それは奥にさまざまな情感や考えや思想を込めながら、可能な限り「さりげなく」撮っているやり方が手に取るほど見えたから。
最近見た映画で言えば、一見すると杉田協士の『彼方のうた』に似ていて何も起こらない。ところが『彼方のうた』のとりとめのなさは、出てくる人々の強い衝動がやむにやまれず自然に発露する結果だということが身に沁みてわかる。ところが『Here』は、一つ一つのショットに移民問題とかエコロジーとか家族愛とかの「思想」が透けて見えてしまう。
さらに16㎜のフィルム撮影でスタンダードサイズの選択。「いい感じ」のする好きな人はきっと好きなアート系映画だが、私はどこか引いてしまった。
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