40年ぶりの『構造と力』
昨年末に浅田彰著『構造と力』が文庫になったので、ようやく買った。原著が出たのが1983年9月というのは、よく覚えている。7月に集中講義で1週間やってきた中川久定京大教授が、打ち上げの時に話題にしたからだった。
「京大の経済学部に20代ですごい天才の浅田君というのがいるけど、誰か名前知ってる?」という問いに当時『現代思想』を読んでいた大学3年生の私は「知ってます!『現代思想』に連載している人です」と答えた。「そうか、彼がもうすぐ本を出すんだけど、これがフランスの現代哲学を実にうまく解説しているんだよ」
だからこの本が大学生協に並んだ9月にはすぐに買った。同じ年の3月には蓮實重彦著『監督 小津安二郎』も出ていた。前にも書いたと思うが、この2冊は私のバイブルとなり、「フランスに行って、哲学を勉強して映画を見る」ことが目標となった。何と単純なのだろうか。
実際、翌年の7月末にパリに行き、1年間過ごした。パリの第七大学でジュリア・クリステーヴァが学部長の記号学科(正確には「テキストとドキュメントの科学学科」)の3学年目に登録して彼女の授業を受けたのだから、2冊の影響は大きかった。
蓮實さんとはその後、何度も仕事をするようになったが、浅田さんは一度だけ、1999年のパゾリーニ映画祭シンポジウムで朝日ホールに登壇してもらった時に少し言葉を交わしただけだ。彼はその後あまり本を書かず、インタビュー集などが中心になったが、彼の文章はいつも注目していた。
現代美術の批評が鋭く、都現美でアラーキーと草間彌生の個展が同時に開かれた時に草間に比べてアラーキーのレベルが低すぎと書いたのはよく覚えている。新美でポンピドゥーセンター展をやった時は、堂本尚郎さんのトークにやってきて、会場から鋭い意見を述べて堂本さんを喜ばせた。
さて『構造と力』はどうか。40年前、私はすべて理解したつもりで、「難しい」という友人を馬鹿にしていた。ところが今読んでみると、正直、全然わからない。私の頭脳はよほど退化したようだ。ただ、いくつかの文章は暗記していて、懐かしかった。
「感性によるスタイルの選択の方が理性による主体的決断などよりはるかに確実な場合は少なくない。その意味でぼくは時代の感性を信じている」
このポップさ、学生運動世代をなで斬りにするような心地よさに酔ったのだろう。
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